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SDGsを経営に活かす、食の循環を通じて『三方よし』の経営を実現

記事提供:環境ビジネス

髙橋 巧一氏
日本フードエコロジーセンター 代表取締役(獣医師)
1967年神奈川県生まれ。1992年日本大学農獣医学部(現生物資源科学部)獣医学科卒業。同年獣医師免許取得。経営コンサルティング会社、環境ベンチャー、小田急ビルサービス 環境事業部 顧問を経て現職。2018年一般社団法人全国食品リサイクル連合会 会長に就任。

第2回ジャパンSDGsアワードでSDGs推進本部長(内閣総理大臣)賞に輝いた日本フードエコロジーセンター。食品リサイクル業を営む同社では食品の製造過程で発生した食品残渣や消費前に廃棄処分となった食品を養豚飼料に加工し、資源循環を実践している。「中小企業こそ、SDGsに取り組むべき」と話す、同社代表取締役の髙橋 巧一氏に伺った。

子ども時代に遡る、『持続可能な開発』との出会い

髙橋氏が環境への関心を持ち始めたのは10歳の頃だ。動物や自然が好きな少年だった髙橋氏がその頃、学校で書いた作文には「獣医師になり、環境への取り組みをする」と、すでに将来の目標を綴っていたという。そして子どもの頃の遊び場だった近所の雑木林が駐車場やマンションに変わってゆくのを目の当たりにして、環境への取り組みの思いは強まっていった。

髙橋氏は獣医学科のある大学に入り、環境ボランティア団体『フィールド・アシスタント・ネットワーク』を立ち上げて活動を始めた。1992年、ボランティア活動のために『国連環境開発会議』(「地球サミット」〔UNCED〕)の開催地であるブラジルのリオ・デ・ジャネイロを訪れたとき、会議の趣旨にある『持続可能な開発』という言葉に出会った。『自然を守りたい』というよりも『自然と人が共生』していく社会、つまり『持続可能な社会』をつくるという概念は、髙橋氏が以前から抱いていた発想に近かった。

1998年、農林水産省で未利用資源の推進事業が立ち上がった。資源の少ない日本では、資源を上手く活用しなければ日本の畜産は成り立たなくなる、という危機感が国にもあったという。

「環境に取り組むことが経済も成り立たせるということを私たちが実践していかないと、経済も社会のしくみも変わっていかない」そう考えた髙橋氏は、当時ベンチャー企業で実現させたいと考えていた構想を農林水産省に持ちかけていたという。

元来の養豚手法と日本の発酵文化を活用

5,000~6,000年前にまで遡れるという養豚の歴史。古来から人は雑食である鶏や豚を飼育し、人が食べ残した物を家畜に与えて卵を得たり食肉にしたりしていた。それが本来の畜産の姿であったといえ、日本の養豚現場でも戦後しばらくは、余った食べ物を集めてきてドラム缶で煮込んで豚に与えていたという。40~50年ほど前から主流になった飼料は、トウモロコシなどの穀物を乾燥させて砕きペレット状にした乾燥飼料である。

この背景には、戦後のアメリカの政策があるのだという。日本と韓国へのトウモロコシ販売拡大を目指したアメリカが考案したのが乾燥飼料で、乾燥させるのは輸送過程の腐敗を防ぐ目的があった。

「アメリカがトウモロコシよりも、豚肉や牛肉を売ることにシフトした政策がFTAやTPPです。日本はアメリカの政策に振り回されているように見えます。これにより、農家の方々が疲弊していく現状もあります。税金を使って焼却処分されている食品残渣を飼料として利用できれば、この課題を解決できるのではないかと考えました」

工場内の様子。リサイクルされる食品はタンパク質や脂質などの栄養成分を調整されたうえで液状発酵飼料に加工される

そこで髙橋氏は液状の飼料による養豚手法であるリキッドフィーディングに着目した。デンマークなどでは一般的な方法だったが、液状の飼料は腐敗しやすい。一方で腐敗を防ぐために乾燥させると、エネルギーを使用してCO2も排出するうえ、コストがかかり過ぎるという問題点があった。飼料の価格が高くなっては、農家に使用してもらえない。

「『リサイクルはコストが高い』といわれる典型例になるのは避けたかった。リサイクルするからこそコストダウンするというしくみをつくりたかった」と髙橋氏は話す。

腐敗を防ぐ低コストな方法として髙橋氏が思いついたのは日本の発酵技術だった。髙橋氏は国の研究者や大学と共同で液状の発酵飼料の研究開発を始め、多様な食品残渣を安全性を確保したうえで飼料化する技術の開発に成功した。コスト的にも通常の飼料が35~55円/kgのところ、液状発酵飼料は20~25円/kg(乾物換算)を達成。この研究が産学間連携農林水産大臣賞を受賞したことにより、液状発酵飼料は日本の養豚現場で普及し始めた。

世界人口が増加している現在、飢餓人口も増加しているという現実がある。時には途上国の環境を破壊して、牧場や農場にした場所でつくった食品を先進国は得ている。そうして得た食品の内の3分の1は廃棄しているのが現状だ。途上国で食糧に困っている貧困者は、移民や難民として海外へと向かう。食品ロスの問題は、政治的、宗教的な問題と並ぶ移民問題や難民問題の原因となっているのだという。髙橋氏はこの課題解決のモデルを日本が示していければと考えている。

SDGsは難しくない、自社事業の「見つめ直し」の必要性

近年『サステナビリティ』を冠した部署を設ける企業が増えている。しかし、髙橋氏は「SDGsは部署単位で取り組むものではないのではないか」と考えている。髙橋氏は「弱者救済や社会課題解決を達成するような方向のビジネスが、本来の持続性が高いビジネスです。企業が経営戦略を考えるときの指針となるのがSDGsであり、ひとつの部署だけが取り組む概念ではないのではないでしょうか」と語る。

「対価を自分だけが享受するのではなく、経済活動によって、みんながWin-Winの関係をつくっていく。どうやって社会の役に立つのかを大前提に、環境とのつながりの意味を考えて自社の事業を見直すことが大事」なのだという。日本の商売の考え方である『三方良し』の視野を、世界まで広げてみたのがSDGsであるともいえる。

同社にはさまざまな見学者が訪れ、近年は海外からの見学者も増えてきている。資源循環や持続可能なビジネスのあり方を伝えてゆくことが、マーケットを広げることにもなると髙橋氏は考えている。見学者を積極的に受け入れることで、従業員のモチベーションも高くなるのだという。食品ロスの問題に対する近年のメディアの関心の強まりは「20年間、地道にコミュニケーションをし続けた結果」と髙橋氏は話す。

工場では常に見学者を受け入れており、見学用のデッキが整備されている。外部からさまざまな『お客さん』がやってくることで社員のモチベーションも上がるという

また、同社では食品残渣中に混入したプラスチック包装などの選別作業を地域の障害者が担っている。障害者のなかにはひとつのことに継続して集中できる特性のある人も多く、異物を選り分ける作業は得意で効率もよいのだという。会社にとっては作業効率が上がり、障害者にとっては働く場ができるというWin-Winの関係だ。また、従業員には元教員や元駅長など、さまざまな背景を持つ人がいる。それぞれの特性を活かして『やりたいことをしてもらう』ことで、現場からアイディアが上がってくるのだという。

自社事業の見つめ直しが『SDGs経営』の第一歩

「仕組みづくりには机上論ではなく、現場からの声やアイディアが大切。現場に密着した中小企業のほうが、直面している問題をよく知っていて小回りもきくので、SDGsを実践しやすい。中小企業こそSDGsをビジネスに取り入れるべき」と髙橋氏は話す。現場の問題点や背景を捉えたしくみをつくることで、経済活動はよい方向へと向かっていく。

「難しく考えずに、直面している社会課題が何なのか、企業が直面している課題を解決するにはどのような取り組みが必要なのかを考えること。そのための指針となるものがSDGs」

自社事業を見つめ直し、事業が社会のどの部分に貢献するかを考えることが『SDGs経営』の第一歩となるのだ。

『サステナビリティファーム』構想の実現に向けて

髙橋氏が事業を開始した当初から持ち続けていた構想に、農場・畑・レストランなどを複合させた施設『サステナビリティファーム』がある。現在は2年後の実現を目指して準備中だ。自社農場の養豚場ではリサイクルでできた飼料を与え、家畜の糞尿と飼料に向かない食品をバイオガスエネルギーに変え、余った液肥は田畑に利用する。田畑でできた農産物は、直売所で販売をし、併設されたレストランでも使用する。ビジネスとして成り立たせるだけでなく、体験学習や食育もできる場にもしたいと髙橋氏は考えている。

こういった構想は、持っていてもなかなか実現できない企業が多い。その理由は、設備にコストをかけすぎていることだという。

「設備にはコストをかけずに、よい人材を集めてよいオペレーションをつくることにお金を使えば、費用を抑えて実現できる」と髙橋氏は話す。

同社で働く従業員の経歴は多種多様だ。溶接のプロでもある経理、社会福祉士の資格を持つ総務など、複数の役割も果たすことができる人材を積極的に雇い、活躍してもらうのが同社の方針。これにより、『社会に貢献できることをしたい』という意識の高い人材が集まってくるという。それぞれが持つ資格や能力を活かしてやりたいことを進んでやってもらうことで、高いモチベーションを保って働くことができるのだ。同社では高卒者を新卒として採用しているが、離職者はゼロである。

また、工場は竣工以来トラブルなどで止まったことが一度もない。社内に設計やメンテナンスができる人材がいることで、メーカーに頼らない運用ができるからである。導入している機械はシンプルであり、プラントメーカーに頼まずに自分たちで設計・エンジニアリングをして設備をつくることで、設備投資のコストを大幅に削減できるのだ。

食品リサイクル業者の9割近くは赤字経営だという。リサイクル業単体では採算を採ることが難しいという現状のなか、『サステナビリティファーム』は複合的な事業展開からトータルで相乗効果を発揮するしくみのモデルケースとなるよう、実現を目指しているのだと髙橋氏はいう。

「マーケットを成熟させて、ビジネスとして成り立つようにやっていけるような仕掛けを、国と一緒に考えていく」と話す。

『サステナビリティファーム』構想は自治体やディベロッパーからも注目を集めており、さまざまな人々が見学にやってくる。しかし地域により事情はさまざまであり、そのまま真似してもうまくいくとは限らないと髙橋氏はいう。持続可能なビジネスには、自らの地域・自社の事業を見直し、地域に根づいた取り組みこそが、持続可能なビジネスの実践につながるといえるだろう。

記事の公開期限:2019年12月07日

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