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大和ハウス工業の取り組みから学ぶ 企業価値を高める『統合報告書』(後編)

記事提供:環境ビジネス

経営者の目指していることを可視化する

(前編はこちら

大和ハウス工業では、統合報告書やサステナビリティレポートを作成するにあたり、4年前から評価機関や機関投資家がどのような情報開示を期待しているのかニーズの把握に努めてきた。

「まず目的、『何のためにやるのか』が重要です。当社では『世の中の役に立つからやる』という創業者の信念がサステナビリティ経営の原点であると位置づけていますが、持続的な経営には何が必要なのかを常に考えなくてはなりません。世の中が具体的に何を望んでいるのか、環境なのか、人権なのか…。昔は品質、コスト、スピードといった要素がメインでしたが今は、それにプラスESGの観点が必要になっているのです」(内田氏)

SDGs、ESGというと、中小企業では取り組んでいる企業はまだ少ないが、大企業がこうした動きを見せている中で、バリューチェーンの一環として知らぬふりはできない時代になっている。

「規模の大小に関わらず極端な話、『取り組んでいなければ、仕事を一緒にできない』という話にもなりかねない。そうなれば死活問題です。ESGに取り組むなら、まず、メインの取引先やお客様が何を望んでいるのかを、把握する必要があります」(内田氏)。

 

大和ハウスグループ「サステナビリティレポート2019」

取引先のオーダーの意図を認識することも大事だが、自社の経営者の意図を理解することも必要だ。経営者がなぜ、トップダウンで『ESG、SDGsに取り組もう』と言っているのか。よく理解する必要がある。

「当社でも統合報告書の内容を制作メンバーで議論していくうち、これは、経営者が日頃考えていることを可視化していく大切なプロセスだと思うようになりました」(内田氏)。

3冊目の発行となる『大和ハウスグループ統合報告書2018』では、『大和ハウスグループの価値創造』に欠かせない3つの経営基盤(人財基盤、顧客基盤、技術・ものづくり基盤)と強み(複合的な事業提案力)に加え、新たに事業を通じて貢献すべきSDGsのテーマを特定して、中長期の価値創造プロセスを紹介し、グループの取り組み、成長性について5章にわたり説明している。

「企業価値を上げるには、自社が何を大切にして、どういう経営をしているのかをわかっていなければいけません。創業者の残したDNA、現会長、社長が繰り返し口にしていることが当社の経営の根幹を表現しており、統合報告書はその内容をいかにして具体的に可視化できるかが勝負だと感じています」(内田氏)。

経営者の目指していることを可視化するアイテムとして統合報告書やCSR報告書がある。作成するには、経営者が何を考えているのか、直接聞く必要がある。それをせず評価機関や投資家との対話に臨めば、焦点がズレてしまう。機関投資家が本当に大切だと思っているのは、『経営者が何を考えているのか』、『どこまで先をイメージして会社の舵を取っているのか』だからだ。その確度を高める要素としてESGがあるのだといえる。

「最終的には、ESGの評価機関が何を要求しているか、SDGsのどのテーマを選択するのかだけではなく、『御社のトップは何をやりたいのか』を、機関投資家は知りたがっていて、統合報告書では、それをわかりやすく伝えることが大事だと思っています」(内田氏)。

(利益+ESG)×対話がCSR

統合報告書やサステナビリティレポートを作成し、情報を開示して、ESGの評価が思ったほど高くなければ、何が足らないかが跳ね返ってくる。対話することで、何に力を入れればいいのか、優先順位を決めながら活動も開示の内容も改善していけばいい。間違えてはならないのは、評価を高めるため、スコアを上げるための情報開示ではないということだ。

「評価を上げるためだけの情報開示だというのでは、本末転倒です。評価を上げることだけを考えたり、フレームワークやガイドラインといった物差しに強引に合わせようとすれば、生きた報告書ではなくなります。今は、物差しがたくさんあるので、企業担当者も読者の機関投資家もかなり苦労していると思いますが、参考としつつも自社視点を見失わないことがポイントだと思います」(内田氏)。

大和ハウスグループのCSR指針

機関投資家はESGプラス企業理念や創業のDNA、現役トップの考えを知りたいと思っており、そこを重視している。

「『ESGの評価を高めるために経営をしているんじゃない』といった話も耳にしますが、確かにそうです。ESGは重要ですが、その評価を上げるために経営者は経営しているわけではないのです」(内田氏)。

企業価値が高まり生み出した利益を、ステークホルダーと分かちあう、その循環が限りなく続く状態を創り出すための手段のひとつがESG。

「利益を出すこともCSRの一環です。利益追求とCSRは別物ではない。『(ビジネスで利益を上げること+ ESG)×対話』、これが当社のCSR指針を私なりに解釈したCSRの定義です」(内田氏)。

総合思考プロジェクトを開始してから4年、一番大きく感じるのは「経営層の認識の高まり」だと言う。大和ハウス工業の取り組みはトップダウンではなくボトムアップからはじまった。とはいえ、全社に波及するには、やはり、経営層からのトップダウンが必要だ。最後はトップからいかなければ、ESGを社内の津々浦々まで浸透させることはできない。

ひと昔前までは、CSRは専門部署のスタッフだけがやる仕事だった。サステナビリティが重要視される今は、社員全員が『自分ごと』にしなければいけない時代になっている。

「当社でも5月に部署名を『CSR部』から『サステナビリティ企画部』に改称したのですが、CSRという言葉が想起させるものにはバラつきがあります。ある経営者はコンプライアンスだと捉え、ある経営者は社会貢献と捉え、ある経営者は環境と捉えている。全部正解です。利益追求までここに入ることを考えれば、CSRという言葉や概念そのものも変容しています。一言で示せば「サステナビリティの追求」であり、限りなく経営そのものに近いと思えます」(内田氏)。

 

SDGsやESG投資への動きが加速するなか、CSRの影響度はますます高まり、サステナビリティを全社的に推進している担当部署の役割も重要度を増していく。

 

記事の公開期限:2020年08月30日

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