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人口2000人のまちが挑戦 「農業×福祉」で稼ぐ地域をつくる

記事提供:事業構想

2018年6月に開催された「北のビーナス蕗まつり」の様子
竹内 誠一(CLAPS creative Co-Founder/Producer)、榎本 淳子(同Co-Founder/Facilitator)

北海道の道東に位置する音別町は、2005年に釧路市と飛び地合併した。1950年代には人口1万人以上を誇った音別町だが、炭坑の閉山などを理由に現在は人口2000人以下まで激減。若者の担い手が少ないなか、農業と福祉を掛け合わせ、新ブランドをつくり、雇用を生む新しい挑戦が進んでいる。

複数の課題を同時に解決

春の河口は降海するアメマスが群がり、夏の海岸はブルーバックのアメマスやサクラマスが回遊する。秋にはサケや遡上する砲弾型のアメマスが見られ、釣り人の聖地のひとつとなっている音別町。釣り好きが全国から集まり、風光明媚な景観も楽しめる地域であるが、高速道路のインターチェンジや宿泊施設が少なく、観光だけで地域経済を成り立たせることは困難だ。

そうした中、かつては広大な土地に自生していたものの、水害や乱獲等によって収穫量が減った地域資源である蕗(ふき)をつくり、地域に正の循環を生み出そうという機運が高まっている。その中心にいるのが、2017年5月に設立された一般社団法人音別ふき蕗団だ。ビジョンとして、「ふきで音別町が有名になり、若い人から年配の方まで、どんな人も自信を持って、イキイキと暮らせる」を掲げ、蕗を生産、ブランド化することを通じて、まちが有名になり、誰もが自信を持って暮らせるまちを目指している。

このビジョンには、行政や地元の信用金庫、社団法人、障がい者・若者支援団体、地元企業、東京のクリエイター、アーティストなどが賛同。連携しながら、(1)稼ぐ仕組みの構築、(2)コミュニティの形成、(3)生活保護や福祉の給付やサービスに依存しない持続可能な地域モデルづくりを実施。行政が税金を投じて対処することの多い、「地域の担い手不足」や「生活困窮者・障がい者の自立支援」などの複数の地域課題を同時に解決し、地域を活性化している事例として注目を集めている。

地域が一体となって蕗を生産。販路を広げるための新しい商品の開発も検討されている

地域が一体となって蕗を生産。販路を広げるための新しい商品の開発も検討されている

地域がまとまるにはファシリテーターが必要

音別ふき蕗団の活動には、クリエイティビティを生かした社会実験に取り組むCLAPS creativeの竹内誠一氏と榎本淳子氏も参画している。両氏は、マーケティングや広告制作業を本職とするパラレルワーカーであり、プロデューサー・ファシリテーターだ。

両氏が音別町の取り組みに関わる契機となったのは、元釧路市職員で、一般社団法人釧路社会的企業創造協議会の副代表として、生活保護者の困窮者の就労支援を行う櫛部武俊氏との出会いだ。櫛部氏は、音別ふき蕗団においても、「中間的就労自立の場」の創出に貢献している。

櫛部氏と出会い、音別町について知る中で、人口2000人以下の音別町においても、農家は個人事業主であるため、人と人のつながりよりも、個で解決することが多いことに気が付く。竹内氏は「高齢化で人口が減っているのは状況であって、活力がわかないことが問題。その要因のひとつが人のつながりが薄いこと」と説明。よそ者として、ファシリテーター役を買って出ることになった。

ファシリテーター役は、皆が困っていることや次にやることを明らかにする役割。課題、ビジョンが共有されやすいのが小さい町の魅力だ。そこに当事者以外のよそ者が加わることで伝統的な地域に新しい関係が作られた。関与する必要性があった。

図 音別ふき蕗団と地域の連携

図 音別ふき蕗団と地域の連携

パートナーシップでビジョンを実現

今では、地元の農家の人が蕗を栽培し、草むしりなどの単純作業は、若者支援のNPOや障がい者施設、音別学園の園生や生活保護を受けている人たちが加わる中間就労、農福連携を行う形が出来上がった。

そして、山に元々自生している蕗だったが、畑で育てはじめて1年余りで20トンの収穫に成功。3年後には50トン、売上高1000万円を目指している。生産量の増加に伴い、音別ふき蕗団が中心となって、蕗の生産体制の強化や商品開発を行ない、地元の警備会社が、新規事業として蕗の加工工場を稼働するなど、地域が一体となって生産から商品開発、ブランド化までを進めている。今後は、販路を広げるために、都市圏で売れるようなフリーズドライ商品の販売も考えているという。

「これまで福祉として市で回っていたお金を、経済で回そうという試みは珍しいと思います」と、竹内氏が解説すれば、「立場も年齢も出身も違う人たちが、自分たちの持っているスキルを活用しながら、プロジェクトを運営している点が面白い」と榎本氏は話す。

このようにビジョンに向けてまち全体が動き始めている中、竹内氏は音別町の現状を次のように分析する。

「枠組みだけではうまくいきません。個人が活力をもってやっていけるかが大事。地域ブランドは、地域の人たちがどれくらい、それに愛着を感じ、コミットメントできるかが大切です。10年後、20年後のビジョンから、目標を設定して、共感する仲間を集め、役割分担を決め、進めていく。現在は、自分たちがどうありたいのか、どうしていきたいのかを固めている時期であり、今後はプロジェクトマネジメントがより重要になってくるのではないかと思います」

今後に向けては、音別町の文字に「音」があることもあり、現在音別町にいない若者に興味を持ってもらうためのコミュニケーションのひとつのツールとして、音楽を活用した地域活性も構想している。

「農業と福祉と音楽で地域にお金を生み循環させる」という日本で初めての活動はどのような成果をもたらすか、今後に期待が高まる。

記事の公開期限:2019年02月10日

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