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持続可能な社会の実現を教育機関で実践する

記事提供:環境ビジネス

2017年11月、千葉商科大学(千葉県市川市)は日本の大学として初となる「自然エネルギー100%大学」を宣言。さらにESG投資も行い、SDGsへの取り組を加速させている。商学・会計学などの『商い』を探求する教育機関が環境・エネルギー領域に積極的に取り組む理由とは。2012年の着任以降、強いリーダーシップでさまざまな施策を進め、2017年3月に学長に就任した原科 幸彦氏にお話いただいた。

商科大学として『商う』ものは、産業の米である『エネルギー』だ

2017年11月、千葉商科大学は日本の大学として初の「自然エネルギー100%大学」を目指すことを表明。2018年度末までに同大学が所有するメガソーラー(千葉県野田市)などの発電所などの発電量と市川キャンパスの電力消費を同量とし、さらに2020年度末までにはガスなどを含む全消費エネルギーを同量にする環境目標を発表したのだ。

では、なぜ教育機関である大学が「自然エネルギー100%」を目指したのだろうか。

「昔は『産業の米』とよく言いましたが、産業の基本はエネルギーです。エネルギー問題をしっかりやらないと、産業がうまくいかないし、生活もうまくいきません。商科大学として『商う』ものとして重要なもののひとつはエネルギーです」と、原科氏。

千葉商科大学が教育機関として、環境問題などに積極的に取り組む原動力は、その原科氏にあると言っていいだろう。原科氏は1946年生まれで、東京工業大学理工学部を卒業後、同大学院理工学研究科にて博士課程修了。同大学の教授を経て、名誉教授に。千葉商科大学には2012年より着任し、政策情報学部長を経て、2017年より学長となっている。環境計画・政策が専門で、インパクトアセスメント及び合意形成研究などの第一人者だ。

「2011年の大震災以降、日本の状況は大きく変わりました。原発が3年間も止まっており、過去7年以上の期間平均でも1~2%しか使われていません。これはぼゼロということです。他で賄えてしまえています。そういう意味では、日本はドイツよりも進んでいるんですね(笑)。私が、この大学に来たのは2012年で、この震災以降の対応はどうあるべきかという議論が大変に盛り上がっていた時期でした」と原科氏。

震災を経て、日本のエネルギー計画は、地方分散・自立の方向へ向かっていた。そこで、合致したのが原科氏の持っていた「日本は資源の豊かな国だ」という考えだ。それは太陽光、水力、風力、地熱など、自然エネルギーが豊かであるということ。自然エネルギー先進国である欧州と比べれば、実のところ日照時間、降雨量、森林の量でも日本の方がはるかに多い。「日本は非常に恵まれた条件だから、これを活用しない手はないだろう」というのが原科氏の主張なのだ。ただし、昔から言われているように、自然エネルギーは不安定であるし、地域ごとの向き不向きがある。日本全体では豊富かもしれないがバランスが悪い。そこでポイントとなるのがエネルギーの流通だ。生み出しやすい場所で作り、必要な場所に、いかに上手に流通させるのか。

「その流通を実現させるには3つのものが必要です。ひとつはハードウエア。送配電網となるグリッドです。2つめは流すためのソフトウエア。3つめがレギュレーション(制度)です。現状ではハードウエアもソフトウエアも揃っていますが、残りのレギュレーションだけが残っています。それさえクリアできれば一気に行けるんです」と原科氏。

「社会を変えるためにどうしたらよいのか。再生エネルギーは絶対に広めなければいけない。日本の将来を明るくしなければいけないと考えていくと、流通に『商い』の力を活用したいと思いました。そのために、そういうことを教育する、研究する。さらにそれをわかってもらうために、まずは『隗より始めよ』ということで。SDGsにもある目標に、『つくる責任・つかう責任』の考え方で、自分で使っている分は、自分で作ろうと始めてみました」

その言葉通り、千葉商科大学では2013年にFIT(固定価格買取制度)による補助制度を利用して千葉県野田市にメガソーラー施設を建設。2014年から稼働をスタートした。そのメガソーラーは、なんと初年度で、キャンパスで利用する電力の77%をも賄っていることがわかった。「あと23%ならいけるかな」と、「自然エネルギー100%大学」への道と進むことになったのだ。そして、2016年には地域エネルギー事業者として原科氏が社長を務めるCUCエネルギー株式会社を設立。自然エネルギー100%を達成に向けたエネルギー・サービス事業を展開していくという。

「この会社は千葉県で地域展開できればいいと思っています。全国でも同じことをやってもらいたんですよ。いわゆる『ファースト・ペンギン』です。他の人にも飛び込んでもらいたいと考えています」と原科氏。

エネルギー問題だけでなく、SDGsなど幅広い取り組みを実施

「自然エネルギー100%」で注目を集める千葉商科大学だが、実のところエネルギー問題は、大学が2017年にスタートさせたユニークな取り組みの一部にしか過ぎない。その全体の取り組みが「学長プロジェクト」だ。プロジェクトは「会計学の新展開」「CSR研究と普及啓発」「安全・安心な都市・地域づくり」「環境・エネルギー」の4部門となる。社会科学系の総合大学として、地域を志向した持続可能な社会づくりや大学としてのSDGs貢献を目指しているという。

「会計学の新展開」とは、これからの情報ネットワーク社会に対応し、新時代の今日的問題に応える新しい会計の在り方を探求するというもの。「CSR研究と普及啓発」には、CSRそのものだけでなく、SDGsやESG投資への研究教育も含まれている。「安全・安心な都市・地域づくり」は、研究・教育だけでなく、地域防災の基盤を構築するため、地域の教育機関と病院、自治体の11機関から成るコンソーシアムも設立した。

「サスティナビリティに本学としてどう貢献するのか。本学には盤石な会計学の教育があります。結局、サスティナビリティを実現するには合理的な判断が必要です。データが大事なんですね。会計学というのはお金を中心にデータを作ること。ただ、『会計学の新展開』では、貨幣でやる会計学だけでなく、それ以外の実物の会計学もあります。ファクトを正確に把握し、次の計画に使うという広い考えです。そういう形でサスティナビリティに貢献するのも会計学です。それが一つ目です。二つ目は、サスティナビリティは心の問題です。お互いに助け合うことが大事なんです。みんなで周りのことを考える。それがCSRです。CSRは英語ですが、本来は日本が元祖です。商いの道は『三方よし』。売り手よし、買い手よし、世間よし。これが本来なんですよ。それをやってきたから日本の企業は長寿なんです。100年以上続く企業が3万社もある。中小企業が多いんですね。江戸時代から続く企業が3,000社。欧米とは比較にならない素晴らしさがあります。そして、三つ目は地域貢献です。これも地域のサスティナビリティ。そして最後が私の環境エネルギー分野。サスティナビリティのために、ESG、すなわち、エンバイロンメント(環境)、ソーシャル(社会)、ガバナンスがつながっています」

自然エネルギー100%をはじめ、サスティナビリティ、SDGs、ESG投資、防災・地域コミュニティといった時代の最先端をいくテーマに取り組む千葉商科大学。その姿勢によって、大学にはさまざまな好影響が生まれているという。

「みんなその気になっていて、学内でブドウを育てて、それでワインを作ろうという話も出ています。それもブドウはソーラーシェアリングで育てようと。さらに本学の卒業生には経営者も多く、中には山梨で高品質のワインを作っている人もいる。そこでワインにしてもらおうという話も出ています(笑)。それ以外にも、入学にも効果があるようで、高校の先生が『千葉商科大学が面白いことをやっている』と言ってくれるようになったそうです」と原科氏。

他にも90周年記念事業で高校生による「環境スピーチコンテスト」を実施したことで、若い世代にも千葉商科大学の注目が高まっているという。もちろん全国の大学にも、千葉商科大学の活動は注目されており、大学間のネットワークも構想されているという。

「『学長プロジェクト』をスタートした2017年は、教員や職員中心に活動していましたが、今では学生が中心になって動いていますよ」と原科氏。もともとは原科学長によるトップダウンでスタートした千葉商科大学の取り組みは、今では教職員だけでなく学生も巻き込んでの動きになっているようだ。環境や社会への高い意識を体現することで、大学自体の活性化が進む。なんとも理想的な状況と言えるだろう。

記事の公開期限:2019年01月06日

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