SDGsをどう理解するか 第3回(SDGsの概要と特色)
「SDGsを理解したい」「どう活用するか知りたい」。そのような方に向けた、伊藤園顧問の笹谷秀光氏による連載コラム「コミュニケーション戦略におけるSDGs」ですが、第3回目は「SDGsの概要と特色」と題し、SDGsの概要とその考え方を「自分のものとする」ためのヒントについて解説します。
「万博」「五輪」などで主流化していくSDGsを活用するために、過去2回の連載(「SDGsをどう理解するか 第1回(CSR・CSVとの整理)」「SDGsをどう理解するか 第2回(ESG投資との整理)」)とも併せて、ぜひご覧ください。
1.SDGsは「持続可能性新時代の共通言語」
(1)SDGs前史 それは『MDGs』から始まった
これまで見てきたように、ISO26000発行(2010年11月)直後の2011年1月に、マイケル・ポーターらが共有価値の創造(Creating Shared Value:CSV)、つまり、社会価値と経済価値の同時実現という考え方を提唱した。
ISO26000で「本業のCSR」に切り替えておけば、CSRの基本を整えたうえで、経営上の重要課題を抽出して、このCSVという社会課題解決型の競争戦略を活用することができる(連載第1回参照)。
2010年にISO26000によりCSRの網羅的ガイダンスができ、2011年にポーターらがCSVを提唱し、これらの理解が浸透した。一方でESG投資の動きが加速化する中で、2015年にミレニアム開発目標(Millennium Development Goals:MDGs)の後継として3年がかりで議論され策定・発表されたのがSDGsである。
ISO26000やCSVを深めるうえでも役立ち、変化の激しい国際情勢の中で企業の中長期的な成長戦略を描くうえで国際的な共通言語があると心強い。それがSDGsである。
SDGsは2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ ― 我々の世界を変革する ―」に記載された30年までの国際目標である。その特色は、地球上の誰一人として取り残さないとの誓いのもとで、途上国、先進国を問わず取り組み、政府等のみならず企業の役割も重視している。ユニバーサル(普遍的)なもので、持続可能な社会づくりのための「共通言語」といえる。
SDGsの前身はミレニアム開発目標(Millennium Development Goals:MDGs)である。これは2000年9月に採択された国連ミレニアム宣言を基にまとめられた、2001年から2015年までの開発分野における国際目標である。
(2)『MDGs』と『SDGs』その違いとは?
SDGsはMDGsと次の相違点がある。
- 途上国の開発問題が中心で、先進国はそれを援助する側という位置付けであったMDGsに対し、SDGsは開発側面だけでなく経済・社会・環境の3側面すべてに対応し、先進国にも共通の課題として設定。
- 目標も8から17に増えて包括的。
- SDGsは課題解決のための企業の創造性とイノベーションを期待し、企業の役割を重視。
つまり、SDGsは、2016年1月から発効した持続可能性に関する国際ルールの集大成であるといえる。
SDGsは、深刻化する現下の地球規模課題の分析を踏まえ、持続可能な世界を実現するための17の目標と169のターゲット、230の指標という広範な施策から構成され、17目標は図のように分かりやすいピクトグラム(絵文字)で表現されている(連載第1回、図表3)。
2.SDGs早わかり ― 共通言語を使いこなす
(1)SDGsは「5つのP」で理解できる
早急にSDGsを使いこなすべきだ。そのためにはその構造と心を理解する必要がある。
SDGsは5つのPで示す分野をカバーしており、17目標をあてはめると次のように捉えることができる(図表)。

図表 5つのPで理解するSDGs
- People(人間):世界の貧困をなくすために、目標1(貧困)目標2(飢餓)目標3(保健)目標4(教育)目標5(ジェンダー)目標6(水・衛生)等。
- Prosperity(繁栄):続く経済をつくるために、目標7(エネルギー)目標8(成長・雇用)目標9(イノベーション)目標10(不平等)目標11(持続可能な都市)等。
- Planet(地球):環境を守り育てるために、目標12(持続可能な生産と消費)目標13(気候変動)目標14(海洋資源)目標15(陸上資源)等。
- Peace(平和):SDGsを実現する仕組みのために、目標16(平和)。
- Partnership(協働):SDGsを実現する協力関係のために、目標17(実施手段)。
(2)「5つの基本」の網羅で水平展開を図る
SDGsには、(1)普遍性、(2)包摂性、(3)参画型、(4)統合性、(5)透明性と説明責任という5つの基本がある。
つまり、他にも応用が効くという「普遍性」、関係者を結集し多様な場所での活用や幅広い業界での導入、活躍という意味で「参画型」、経済・社会・環境の3要素を含める「統合性」、社会のすべての人に配慮を払う、誰一人取り残さない「包摂性」、さらに製品・サービスを広く伝える努力をしている意味での「透明性と説明責任」である。
それらの5項目をすべて網羅すればプラクティスの水平展開が図られるのである。
(3)「東京五輪」「大阪万博」で主流化していくSDGs
SDGsは企業などの組織に実施義務を負わせるものではないが、活用次第で企業経営に好影響が生まれる性格のものである。いわゆる「ソフトロー」の性格を有する。
今や、世界でさまざまなルールや基準が作られ、良い内容のものは、どんどん事実上の標準化(デファクトスタンダード化)していく時代だ。日本は世界発のルールに対応するだけでなく、これを「自分ごと化」して使いこなし、さらにはルールメイキングにも参画していくべきだ。
企業経営に有用なSDGsであるが、その認知度が日本で向上しないのはなぜであろうか。その要因の一つはSDGsの訳語かもしれない。SDGsは先進国、途上国を含む普遍性が特色であるが、「Development」が「開発」と訳されているため途上国を想起させる。「開発」よりも「発展」と訳すほうが先進国にも適用されやすい。
今後、SDGsはあらゆる国際機関で踏襲され「主流化」が進む。近々の日本との関連では、2020年東京五輪・パラリンピックの調達・運営ルールではSDGsが基準になる。大阪招致が決まった2025年万国博覧会でもその主たる目的はSDGsの実現への貢献である。これらを契機に日本発の国際基準ができてもいいのではないか。
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