SDGsをどう理解するか 第4回(パリ協定・脱炭素との整理)
2018年12月末に政府のSDGs推進本部から「SDGsアクションプラン2019」が発表され、「SDGs経営」というキーワードが盛り込まれました。新年を迎え、ますますSDGsが重要となり、2019年は「SDGs経営」元年となることでしょう。
第4回は、SDGs経営にとって最重要課題の一つである、2018年12月に決定を見たパリ協定の実施指針など気候変動や脱炭素との関連を整理していきます。
過去、実際に交渉にも参画した笹谷秀光氏が解説する「パリ協定」と「脱炭素」、ぜひお役立てください。
1.「パリ協定?」「脱炭素?」今さら聞けない疑問を解説
(1)問題の深刻さを各国が理解 ついに運用ルールが固まる
2018年12月15日にポーランドのカトビツェ(ポーランド南部)で開催された国連気候変動枠組み条約第24回締約国会議(COP24)は、温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」の実施指針を採択した。
パリ協定では、すべての国が温室効果ガスの削減目標を国連に提出することが義務づけられている。各国は自主的に目標を定める。
今回は、この目標に盛り込むべき情報について、先進国にも途上国にも共通ルールを適用。これにより、削減目標に基準年を盛り込むことなどがすべての国に義務付けられた。
この実施指針が定められた意義は大きい。これにより2020年以降の温暖化防止に向けた協定運用のルールが固まった。
米国の動きなど、今後さまざまな課題はあるものの、各国は対策に動き出すことになる。
筆者は環境省出向中に大臣官房審議官として2005年にCOP11(モントリオール会合)交渉に参画したことを思い出す。当時の小池百合子環境大臣をお迎えし、ロシアが加盟して京都議定書が発効した会議だった。
そのころにも途上国と先進国の対立や途上国からの援助要請が焦点であったが、今回は気候変動の深刻さに各国が理解を深めた結果の合意であろう。
(2)歴史的な合意「パリ協定」までの歩みとは?
ここで、パリ協定までの気候変動問題に関する国際社会の動きをレビューする。
- 1992年 「国連気候変動枠組条約」が採択
- 1995年 この年からCOPが毎年開催されることとなる
- 1997年 COP3にて「京都議定書」を採択
- 2020年までの温室効果ガス排出削減の目標を定める枠組み。しかし、日本を含む先進国のみに削減義務が課せられ、米国は参加せず
- 2011年 南アフリカで開催されたCOP17
こうした状況を打開するため、京都議定書に代わる「全ての国が参加する新たな枠組み」の構築に向けた議論を開始。 - 2015年12月 パリで開催されたCOP21
約4年がかりの交渉を経た「パリ協定」を採択。先進国・開発途上国の区別なく気候変動対策の行動をとることを義務づけた歴史的な合意として評価。 - 2016年4月 ニューヨークの国連本部においてパリ協定の署名式
世界の温室効果ガス排出量シェア第1位と第2位である、中国と米国が同時に締結し、結果、世界の温室効果ガス総排出量の55%を占める55か国による締結という発効要件を満たした。採択から1年にも満たない2016年11月4日にパリ協定は正式に発効(日本も11月8日に締結)。
パリ協定のポイント
- 目的に、産業革命前からの世界の平均気温上昇を「2度未満」に抑える。加えて、平均気温上昇「1.5度未満」を目指す(第2条1項)。
- 地球温暖化等の気候変動への対処は、温室効果ガスの排出削減と吸収の対策を行う「緩和」と、既に起こり始めている温室効果ガスによる影響への「適応」に分け対策を打つ。
- 先進国、開発途上国の区別なく全ての国が削減目標を5年ごとに提出・報告・レビュー、5年ごとに世界全体での実施状況を検討する大枠を定めた。
COP24の意義
この仕組み実現の具体的な実施指針(ルールブック)や途上国支援の概要を定めたことにある。
(3)脱炭素(CARBON DISRUPTION)とは
脱炭素とは何か。温室効果ガスには、二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素、フロンガスがあるが、なかでも大きな割合を占める二酸化「炭素」は地球温暖化への影響が深刻である。そこで「脱炭素」と言われる。
日本では、2007年度の環境白書・循環型社会白書以降、地球温暖化対策として「低炭素社会」をキーワードとしている。温室効果ガスの排出量をゼロにしたりマイナスにしたりする取り組みではなく、抑制する取り組みが低炭素化である。
パリ協定が掲げた脱炭素社会への移行は、経済活動も含めた、地域と地球規模の持続可能性を目指すものである。
脱炭素社会の取り組みは身近なところにもヒントがあり、ライフスタイルや価値観の変革も必要だ。
パリ協定のパリは残念ながら今は騒然としているが、さまざまな変革もけん引している。
世界文化遺産の代表格のモンサンミッシェルでは、島への道路を架橋に変更し、生物多様性を復活させ、脱炭素の電気バスで往復する。TGVでモンサンミッシェルに行くとパリから西へ2時間のRennes(レンヌ)駅に着くが、そこでも、環境にも社会にも優しいパリ発祥のシェアリング自転車「ヴェリブ」の仕組みが導入されている。(モンサンミッシェルとサステナビリティの関連については、こちらの記事を参照)。

電気バスを導入した世界文化遺産モンサンミッシェル

フランスの地方都市Rennes(レンヌ)駅の自転車シェア
2.SDGsとの関連
ではパリ協定や脱炭素はSDGsでどう取り扱われているか。
SDGsを盛り込んだ国連サミットの文書「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」では「国連気候変動枠組条約(UNFCCC)が、気候変動への世界的対応について交渉を行う基本的な国際的、政府間対話の場であると認識している」と明記。SDGs採択当時(2015年9月)に佳境を迎えていた国連気候変動枠組条約の締約国会議に配慮したものであろう。
SDGsでは気候変動は目標13に3つのターゲットの記載がある。
「目標13.気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる(気候変動に具体的な対策を)」
- 13.1 すべての国々において、気候関連災害や自然災害に対する強靱性(レジリエンス)及び適応力を強化する。
- 13.2 気候変動対策を国別の政策、戦略及び計画に盛り込む。
- 13.3 気候変動の緩和、適応、影響軽減及び早期警戒に関する教育、啓発、人的能力及び制度機能を改善する。
このほか、目標1「貧困の撲滅」や目標2「飢餓の撲滅」にも気候変動が触れられている。
パリ協定は「協定」として締約国に義務を課すものである。一方SDGsは、各国、各主体に取り組みが委ねられている「ソフトロー(規範)的」なものである。両者が相まって、気候変動対策にも寄与していくことが求められている。
今後はSDGsを意識して、経済・社会・環境の統合的なアプローチを取っていく必要がある。
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