ステークホルダーへSDGsをどう伝えるか 第1回(取引先/サプライチェーン)
連載第5回目になりました「コミュニケーション戦略におけるSDGs」。SDGsについて、その成り立ちや事業に活かすための理解の方法、「パリ協定」等他の国際的な動きとの関連性などお届けしてきました。
一方で「一部の企業だけに関わるテーマでは?」「余力のある会社だけがやること」など捉えられることも多いかと思います。また、SDGsに取り組みたいと思いつつも、「自社の事業との関連性が見えてこない」「どう取り入れれば良いのかわからない」とのご意見もあるでしょう。
今回は、SDGsについて各所で起きている新たな動きをご紹介し、SDGsが主流化し、サプライチェーン全体で取り組む重要課題になりつつある状況を解説いたします。そして、SDGsを理解し事業に活かすためのヒント、実例などもご紹介していきます(過去の連載はこちらから)。
1、SDGsの「主流化」と取引先からの要請
(1)SDGsの「主流化」
今後、SDGsはあらゆる国際機関や政府の政策で踏襲され「主流化」が進む。次の6方面の動きが重要だ。
- ESG投資が加速し事業会社にはSDGsの実践を求めている。投資ではSDGsとESGが表裏の関係でとらえられている。
- 取引の大きなプラットフォームを提供する企業(流通大手、基幹製品大手企業、大規模プロジェクト推進企業など)がSDGsを大きく打ち出し始めた。つまり、これら企業との取引にはSDGsが必須になる。
- 自治体でも「SDGs未来都市」が政府により29選定された。
- 五輪・パラリンピックの調達・運営のルールでもSDGsが基準として明確に打ち出され、政府も「SDGs五輪」とうたっている。大阪招致が決まった2025年万国博覧会でもその主たる目的はSDGsの実現への貢献である。
- 大学、消費者、NPO/NGOの勉強会もひっきりなしにある。特にミレニアル・ポストミレニアル世代の反応が早い。
- メディアでも、例えば、日経新聞のESGやSDGsに関するフォーラム、朝日新聞のSDGsへの取り組み、筆者も参画させていただいている学校法人先端教育機構のSDGs総研の活動などが加速している。

(2)取引先/サプライチェーンに波及
以上の中で、2の取引先、特にサプライチェーン内でのSDGsの加速化を注視すべきである。
SDGs経営で重要なポイントは、以下の5項目である。
- 他にも応用が利く普遍性
- すべての人を取り残さない包摂性
- 関係者を結集する参画型
- 経済・環境・社会の三要素を含める統合性
- 透明性と説明責任
これによりサプライチェーン全体でのSDGsの進展を促す狙いである。
ジャパンSDGsアワード受賞企業の住友化学は、アフリカでのマラリア防止の「オリセット®ネット」事業を通じて、「目標3 健康な生活(すべての人に健康と福祉を)」のみならず、雇用、教育、ジェンダーなどの幅広い分野で、経済・社会・環境の統合的向上に貢献。このように、影響力の大きな企業の取り組みはその取引相手のSDGs化を促す。
「Society 5.0」の事例では、ICT企業のNECネッツエスアイ社の代表的なソリューション「エンパワードオフィス」(EmpoweredOffice)がある。IoTやAIを活用した新しいテレワーク勤務制度を導入し、「目標8 働きがいのある職場づくり(働きがいも経済成長も)」で働き方改革に寄与する。この解決策を取引先/サプライチェーンでの「目標17 パートナーシップ(パートナーシップで目標を達成しよう)」でつくる。同社は共有価値の創造(CSV)の社会課題解決型企業であると、有識者として参加したダイアログで感じた。

NECネッツエスアイ社でのステークホルダーダイアログ
SDGsの目標は相互に関連しているので、会社の強みを活かす、いわば、「梃(テコ)の力点」が働くキーポイントという意味で「レバレッジポイント」を見つけることが重要である。同社では、「目標9 産業と技術革新の基盤(産業と技術革新の基盤をつくろう)」の技術革新がそれにあたる。
このように、取引のプラットフォームの中で本業を生かしたSDGs経営を本格化させている。これらの事例では、取引先も含めサプライチェーン全体でのSDGs化を促すコミュニケーション戦略で、企業ブランディングとインナーブランディング(社員モチベーションの向上)につなげている。
2、サステナブルブランド時代の幕開け
(1)松尾芭蕉「不易流行」はサステナビリティを体現
激動の世界で、環境・社会の持続可能性への貢献が企業の発展の必須要素となっている。本連載では関係者連携により新たな価値を生み出す「協創力」の必要性を考えている。
「不易流行」(ふえきりゅうこう)
「不易を知らざれば基立ちがたく、流行を知らざれば風新たならず」(『去来抄』)。
時代が激しく変化している中で、松尾芭蕉のこの考えを思い出す。芭蕉の俳論といわれるこの考えは奥が深い。
要するに、「不易」は、いつまでも変わらないこと、「流行」は、時代に応じて変化することである。変化しない本質的なものをよく見極める一方で、新しい変化も取り入れていくことの重要性を表している。
これは実に持続可能性の本質をうまく言い表す表現であると思う。今、国づくり、地域づくり、企業経営に求められているのは、中長期的な展望に立った持続可能な(サステナブルな)設計である。
SDGsは持続可能性に関する世界の共通言語である。これは「流行」ではなく「不易」の考え方として今後定着していくと考える。
(2)「発信型三方良し」
SDGsは、現在の滋賀県の近江商人の経営理念である「三方良し」(自分良し、相手良し、世間良し)のように、日本にもともとあった考えに近いように見える。しかし、実は、重要な違いがある。
「陰徳善事」
これは、「人知れず社会に貢献しても、わかる人にはわかる」という意味である。日本人の美徳であるが、日本企業を内弁慶的にしているのはこの考えの影響であろう。
今は、世代の違いで「わかる人にはわかる」といった空気を読む方法は通じない。ましてやグローバルには通用するわけがない。
そこで、筆者はSDGsも使い発信面で補正した「発信型三方良し」を新たな「コミュニケーション戦略」として提唱している。

3、緊急告知:サステナブルブランド東京と未来まちづくりフォーラム
このコミュニケーション戦略に直結するイベントが「サステナブルブランド東京」だ。ブランドの生き残りをかけ、社会課題解決と事業戦略の統合に挑む関係者に多くのインスピレーションと新たな出会いをもたらすイベントだ。
「サステナブル・ブランド国際会議2019東京」は3月6日(水)・7日(木)に東京で開催される。今回のテーマは「グッド・ライフ実現に向けての再構築」だ。筆者も6日(水)にSDGs Strategy「次世代CSV(価値創造)経営とは何か-SDGsにより社会をリ・デザインする-」のセッションでファシリテーターとして登壇する。
あわせて、Special Event(特別イベント)として、Day2の7日(木)に筆者が実行委員長を務める「未来まちづくりフォーラム―『協創力』で日本創生モデルをつくろう」が開催される。昨年まで「まちてん」として実施していた企画のバージョンアップ版である。
SDGs未来都市に選定された長野県の阿部守一知事、小宮山宏三菱総研理事長、田中理沙事業構想大学院大学学長などが登壇する。
SDGsも大きく取り上げられるので、ぜひ参加いただきたい。
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