Sustainable development goals

ニュース・コラム

ステークホルダーへSDGsをどう伝えるか 第3回(社内/インナー)

記事提供:環境ビジネス

前回までは取引先ESG投資家とのコミュニケーション戦略に触れてきました。今回はコミュニケーションを担う社内に焦点を当てて、解説をしたいと思います。

また、「SDGsは経営に組み込むことが重要」とはいうものの、どう組み込めばよいのかわからないという企業も多いと聞きます。そこで、SDGsを企業に導入するにあたり役立つ指針「SDGコンパス」についても解説します。

1、企業への導入指針「SDGコンパス」を活用する

(1)SDGs導入のために企業はどうすべきか

SDGs導入のために、企業がすべきことは何か。このためのわかりやすい導入指針が「SDGコンパス」である(余談だがこの場合はSDGsと複数形にしていない)。この指針は、大きな多国籍企業に焦点をおいて開発されたが、中小企業、その他の組織も、カスタマイズして使うことができる。

また、企業全体のビジネスモデルへの適用も可能だが、個々の製品や拠点、部門レベルなどでも活用できる。

SDGコンパスで示される手順は「社会的責任に関する手引」ISO26000などでも繰り返し示されている、欧米の指針らしい整理方法である。

SDGコンパス

「SDGコンパス」の英語版はGRI、国連グローバル・コンパクトおよびWBCSD(持続可能な発展のための世界経済人会議)の発行物。日本語版はグローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)と地球環境戦略研究機関(IGES)が共同で翻訳

(2)導入の5つのステップ

導入にあたっては、次のような5つのステップを示す。

SDGs導入のステップ SDGコンパス

【第1ステップ】SDGsを理解する

  • 企業は、17の目標のみならず、169のターゲットも含めて見ておく必要がある
  • 2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ―我々の世界を変革する―」の原文も読む
  • 外務省などが発行している「SDGsとは?」といった資料も参考にする

【第2ステップ】優先課題を決定する

  • SDGsを事業機会と捉え、自社の強みを生かせる分野を探す
  • 一方、事業リスクを減らすために必要な事項を洗い出す

この場合、企業のバリューチェーン全体を通して、SDGsとの関連を洗い出すとよい。これを「バリューチェーン・マッピング」という。

  • 調達・製造・販売という流れでの価値創造に着目する

加えてバリューチェーンを支える基盤としての企業統治、リスクマネジメント、人材マネジメント、財務マネジメントも重要である。なお、伊藤園SDGsモデルのバリューチェーンが参考になる。

これらの作業結果から、正および負の影響を評価し、企業として優先的に取り組む課題を決定する。SDGsの17目標の全てに取り組むこともできるし、環境や社会へのインパクトと優先順位により、重点化や段階的実施もできる。要は、企業がどのSDGsの達成に効果的に貢献できるかを見極め、経営効果を考えることである。

この際には、内部の議論に加え、外部のステークホルダーからの意見も踏まえる必要がある。

【第3ステップ】目標を設定する

  • KPI(key performance indicator、主要業績評価指標)も設定する

社内外で優先的事項の共有を促進し、「見える化」することで、企業として、持続可能性に対するコミットメントを示すことができる。数値化できにくいものは定性的なKPIでもよい。ここで重要な事項が「アウトサイド・イン・アプローチ」だ。企業は自社の都合から、つまり「企業基点」で物事を考えがちだ(なお、これは「インサイド・アウト・アプローチ」という)。

SDGsでは、「社会基点」、つまり、将来の持続可能な社会には何が必要かを外部や社会の視点から検討し経営判断や目標設定を行うことが推奨される。これが「アウトサイド・イン・アプローチ」である。これは実際に社内で実行してみると難しいかもしれないが、少なくとも、自社の活動と社会課題との紐づけからスタートしてみるとよい。

  • 目標設定では、「意欲度の設定」(level of ambition)という考えが特色である

目標と言えば、「必達目標」や「ノルマ」を想起させる日本とは異なるので、実際には容易ではない面があるが、「控え目な目標」より「意欲的な目標」の方がイノベーションや創造性を促進させ、対外的にアピールできる。

また、将来の目標を定め、そこから現在を振り返って「今何をすべきか」というバックキャスティング手法が推奨される(現状からの積み上げ方式(フォアキャスティング)とは異なる)。

2、経営に組み込む方法 「SDGs経営」へ

(1)【第4ステップ】経営へ統合する

次がいよいよ経営への組み込みである。「統合」という概念はこの分野で独特のものだが、要すれば、経営に組み込むという意味である。中長期目標や企業の中核的な事業、企業統治の中にSDGsの持続可能性の項目を組み込んでいく。さらにヒト・モノ・カネの経営資源の投入と関連付けていく。

また、バリューチェーン全体を通じて、目標遂行に必要な関係者とのパートナーシップによる協働についても盛り込む。

(2)【第5ステップ】報告とコミュニケーションを行う

そしていよいよ本連載の主眼である、コミュニケーションである。企業は、共通の指標や共有された優先課題について、持続可能な開発に関する成果(パフォーマンス)を報告する必要がある。統合報告書などのほか、企業のさまざまな情報発信の中で示していく。特にESG投資の機運が高まっているため、適切な開示は重要である。

実際の作業はこのように局面を分けて行うわけではなく、複合的に進められる場合が多いが、以上の手順を踏まえて作業を行えば漏れがないと思う。

(3)メリットは「社内浸透」「インナーブランディング」

さて以上の手順でSDGsを社内に導入すると企業にどのような効果とメリットがあるか。

SDGsは、貧困や健康、教育、気候変動、環境劣化など、企業の本業力が期待される広範な課題を扱うため、企業戦略を地球的優先課題につなげることに役立つ。SDGコンパスでは、次のような企業メリットを挙げている。

01. 将来のビジネスチャンスの見極め

SDGsは、革新的な技術などを持つ企業にとって、成長する市場を示している。つまり、この17の目標をビジネスチャンスとして見ていく。

02. 企業の持続可能性に関する価値の向上

SDGsは、企業の取り組みに経済的なインセンティブを与える。世界課題への対応なので「さあ、やってみよう」というきっかけになるということだ。

03. ステークホルダーとの関係の強化、新たな政策展開との同調

SDGsは、世界でのステークホルダーの期待と将来の政策の方向性を反映している。SDGsを活用すれば、顧客、従業員その他のステークホルダーとの協働を強化できる。一方でSDGsに対応しなければ、法的あるいはレピュテーションに関するリスクにさらされる。

04. 社会と市場の安定化

SDGsの達成に貢献すれば、ルールに基づく市場、透明な金融システム、腐敗がなく、良くガバナンスされた組織など、ビジネスの成功に必要な柱を支援することになる。 海外進出の他、インバウンド関連企業も必須だ。

05. 共通言語の使用と目的の共有

SDGsは、共通の行動や言語の枠組みなので「共通言語」となる。だからこそ世界の社会的課題に取り組むために相互に協力できるパートナーを結びつける。

SDGコンパスによる企業の行動変革

筆者はこの05. が最も重要だと思うが、加えて、現下の難しい時代に、経営陣や社員が課題解決に取り組み、経済価値との同時実現に向けて、自信を持ち、社員のモチベーションを向上させる効果があると思う。これにより社内「ワンボイス化」と「セクショナリズム打破」につないでいくことができる。

チャンスとリスク回避、すぐにも取り組んでいただきたい。

連載

  1. SDGsをどう理解するか 第1回(CSR・CSVとの整理)
  2. SDGsをどう理解するか第2回(ESG投資との整理)
  3. SDGsをどう理解するか 第3回(SDGsの概要と特色)
  4. SDGsをどう理解するか 第4回(パリ協定・脱炭素との整理)
  5. ステークホルダーへSDGsをどう伝えるか 第1回(取引先/サプライチェーン)
  6. ステークホルダーへSDGsをどう伝えるか 第2回(投資家/金融機関)
  7. ステークホルダーへSDGsをどう伝えるか 第3回(社内/インナー)
笹谷 秀光(ささや・ひでみつ)

笹谷 秀光(ささや・ひでみつ)

社会情報大学院大学客員教授
株式会社伊藤園 元取締役

東京大学法学部卒、1977年農林省入省。2005年環境省大臣官房審議官、2006年農林水産省大臣官房審議官、2007年関東森林管理局長を経て、2008年退官。同年伊藤園入社、取締役、常務執行役員CSR推進部長等を経て2019年4月末退職。2019年4月より社会情報大学院大学客員教授。 主な著書に、『CSR新時代の競争戦略 ― ISO26000活用術 ― 』(日本評論社、2013年)、『協創力が稼ぐ時代』(ウィズワークス社、2015年)『経営に生かすSDGs講座─持続可能な経営のために─』(環境新聞ブックレットシリーズ14)新書(環境新聞社・2018年)、共著『SDGsの基礎』(事業構想大学院大学出版部、2018年)など。

現在、日本経営倫理学会理事、グローバルビジネス学会理事、サステナビリティ日本フォーラム理事、学校法人千葉学園評議員、宮崎県小林市「こばやしPR大使」、文部科学省青少年の体験活動推進企業表彰審査委員(平成26年度より)を兼任。通訳案内士資格保有(仏語・英語)。

関連記事