SDGs達成に向けた新たな資金源、国際連帯税の検討始まる
SDGs達成に向けた資金調達について、国内外で新たな動きが活発化しつつある。外務省は、「SDGsの達成のための新たな資金を考える有識者懇談会」第1回会合を2019年7月22日に開催。河野太郎外務大臣出席のもと、座長のシブサワ・アンド・カンパニー代表取締役の渋澤 健氏を含め計6名の有識者委員が参加した。
国連で2019年9月に開催されるSDGsサミットでは、資金調達を含む多くの議論がなされる予定だ。外務省は、サミット開催で世界のSDGsへの取り組みが新たな段階に入ることに加え、G20議長国であり「開発のための革新的資金調達リーディング・グループ」(以下、LG)議長国でもある日本が、SDGs達成に向けた国内外での取り組みを一層推進する必要があるとし、この懇談会を設置した。
国際的な課題解決に向けた資金調達手段のひとつが、国際連帯税だ。 2019年7月にパリで開催されたG7開発大臣会合では、持続可能な開発実現のための資金調達などが議論され、「持続可能な開発資金に関する宣言」が発出された。この会合に出席した阿部俊子外務副大臣は、国際連帯税を含む革新的資金調達の活用の必要性について発信をしている。
国際連帯税とは、グローバルな課題解決を目的に地球規模で課される税金。経済のグローバリゼーションで受益する経済主体が国境を越えて行う経済活動に課税するのが、基本的な考え方だ。
かつて、国際的な問題解決の資金は、ODAなど先進国の公的セクターからの拠出割合が高かったが、近年では、日本を含む多くの国で、財政的な制約などから支援増額が難しい状況となっている。また、公的セクターからの資金は、その国の政治・経済の状況で打ち切られることもあり、持続性、予見可能性が担保された資金の必要性も高まっていた。
国際連帯税とは?
こうした背景もあり、国際連帯税は、SDGsの前身である「ミレニアム開発目標」(MDGs)の時代からその必要性が説かれてきた。2002年から開催された一連の国連開発資金国際会議で、MDGs達成のためにはODAだけでは不十分との認識のもと、炭素税や為替取引への課税なども含めた革新的資金メカニズムの必要性が議論されてきた。この流れを受け、フランスやブラジルなどを中心に、2006年3月「革新的開発資金源に関する閣僚会議」(パリ会議)が開催され、「開発のための革新的資金調達に関するリーディング・グループ」が設立された。
その後現在に至るまで、いくつかの国で国際連帯税にあたる税目が新設されている。代表的な例としては、フランスや韓国などで航空利用者に対し課税する「航空券連帯税」があり、課税額は目的地と利用するクラスによって変わる。この税収の一部は、途上国のエイズ・結核・マラリアなどの感染症治療薬の薬価を下げるなどの活動を行う、「国際医薬品購入ファシリティ」(UNITAID)や、途上国の子どもに予防接種などを提供する官民パートナーシップ「GAVIアライアンス」などに拠出されている。
金融取引、為替取引への課税もありうる?
この航空券連帯税のほかに、国際的な金融取引や為替取引への課税が想定される。LGでも2009年に「開発のための国際金融取引に関するタスクフォース」が創設され、2010年にその専門委員会からグローバル通貨取引税導入の答申を受けている。EUでも2011年に、域内の金融取引等に対しての課税の提案がなされたこともある。
しかし、金融取引に対する国際連帯税導入には課題も多い。例えば、課税権の問題や透明性の確保など、課税のしくみづくりの難しさがある。また、課税により金融関連企業の収益悪化が懸念されることや、金融取引に税金がかからない国への資本の流出を招く恐れもある。
国内でも継続して税制改正要望が出されているが…
国内では、外務省が、2010年度の税制改正要望として「国際連帯税」の新設を提出。税制改正大綱に「地球規模の問題解決のために国際連帯税の検討を早急に進める」と記載されたが、現在もその実現には至っていない。なお、外務省はその後、継続して新設を要望しており、2019年度税制改正要望事項にも「国際協力を使途とする資金を調達するための税制度の新設」として国際連帯税(国際貢献税)を提出している。
SDGsは、政府など公的セクターだけでなく、多くのステークホルダーが創造的な取り組みを通じて協働し、世界の課題を解決するのが基本的な考え方だ。資金に関してもそれは同様で、国際連帯税を含む創造的な資金調達が欠かせないともいえる。
外務省は、今後も有識者による会合を継続する予定。今後、懇談会からどのような提言がなされるかが注目される。
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