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SDGsのさらなる普及へ 『自分ごと化』が重要

記事提供:環境ビジネス

国連広報センター所長 根本 かおる氏

2018年9月25日で採択から3年を迎えたSDGs。社会における認知度は徐々に進んでおり、広報戦略は次のステップに入ったといえる。さらなるSDGsの拡大、浸透には何が必要か、国連広報センター所長・根本かおる氏に聞いた。

暮らしへの落とし込みが課題

2015年に全世界のリーダーが国連に集い、全会一致で採択した『持続可能な開発目標(SDGs)』。2018年9月25日で、採択から丸3年を迎えた。

3周年を目前に、国連では9月23日、SDGsへの認知向上に新たな弾みをつけるためのイニシアティブとして『SDGメディア・コンパクト』の発足を発表。国連本部で開かれた発足式で、ナイジェリアのChannels Media Group会長オルソラ・モモ氏は、創設メンバーを代表し、「私たちは、報道機関とエンターテイメント・メディアの同盟であり、国連と連携しながら、SDGsに関する世論の喚起とアクションの推進に努めることを約束します」と述べた。

世界中の報道機関とエンターテインメント企業に対し、その資源と創造的才能をSDGs達成のために活用することを促すのが『SDGメディア・コンパクト』の目的。創設メンバーはすでに、4大陸80カ国以上に数十億人の視聴者と読者をカバーしており、今後さらに多くのメディア企業の参加も見込まれている。

日本におけるSDGsの認知度について、国連広報センターの根本所長は「企業の報告書などでSDGsのゴールのアイコンやロゴを見かけたり、新聞などでもSDGs経営やESG投資が話題になったりと、それなりに広がってきたのかなと思います。ただ、一般の方たちの暮らしのレベルまでは、あまり浸透していない。そこがひとつの課題だと捉えています」と話す。

2018年4月、全国10~70代の男女計1,400人を対象に電通が行った『SDGsに関する生活者調査』では、SDGsの認知度は14.8%という結果が出た。さらに、男性より女性の認知度の低さが際立った。

「人々のライフスタイルという部分では、まだまだ語られておらず、あくまでもビジネスの文脈で使われている言葉といった状況だと感じます。その点が、特に広報、アウトリーチを預かる立場としては課題です」

企業はクリティカルな点検を

一方、企業においては、自身が得意とする分野においてのみの『つまみ食い』的な印象も否めないという。横断的なマッピングを行ったうえで、足りない部分、『誰一人置き去りにしない』という原則の部分で、置き去りにされがちな部分への手当てが十分にできているかといったクリティカルな点検が必要な段階に入っている。

「取り組みが成熟していくなかで、今後は、批判的な見方をして自己点検していくことも必要になっていきます。トレード・オフの関係にあるゴール、ターゲットもあるわけで、そういうものも見つめながら、全体的・総合的に見た場合にプラスになるような打ち出し方、取り組みを考えていくことが、求められていくと思います」

2018年で第73回を迎えた国連総会。SDGsを含む広範な課題が討議された

2018年6月に発表された国連報告書によると、気候変動や長引く紛争の影響で、十分な食糧が得られない人の数は十数年ぶりに上昇傾向に転じ、全世界で空腹を抱える人の数は2015年の7億7700万人から、翌年には8億1500万人と3800万人増加した。アントニオ・グテーレス国連事務総長は報告書の序文で『2030年の達成期限まであと12年しか残されていない今、私たちは緊迫感を持って取り組まねばなりません』と述べている。

また、独・ベルテルスマン財団と持続可能なソリューション・ネットワーク(SDSN)が7月9日に発行したSDGs達成状況の分析レポート『SDG Indexand Dashboards Report』では、『2030年までにSDGsが掲げている全ての目標を達成できる見込みのある国はない』と指摘している。同レポートのSDGIndexにおいて日本は15位だが、各ゴールの評価では、最も上位の緑評価はゴール4「教育」のみだった。

「日本は、SDGs推進本部、ジャパンSDGsアワード、SDGs未来都市、自治体SDGsモデル事業など、枠組みの整備は進んでいます。今後は、その枠組みに『どう魂を入れていくか』という段階になります。進捗を測るインディケーターも整備が進んでおり、さまざまなデータが出てくるなかで、自己点検しやすい状況が徐々にできていると思います。そうした指標を駆使しながら、足下を測ることが必要です」

© UN Photo/Manuel Elias

資金面でのハードル

SDGsの推進には、世界全体で毎年5~7兆ドル(550~770兆円)が必要といわれている。途上国においては2兆5000億ドル(300兆円弱)の資金ギャップがあり、これは、国のODAだけではとてもまかなえない。

9月24日に米・ニューヨークの国連本部で開催されたSDGsの関連会合において、アントニオ・グテーレス国連事務総長は厳しい財政状況に触れ、資金手当について2018~21年までの戦略を発表した。対策の柱は大きく3つ。1つは各国が協調しての途上国に対する支援体制の制度設計、2つ目が途上国での金融システムと徴税システム構築の支援、3つ目がテクノロジーを駆使した金融アクセスの円滑化。

「金融分野でいえば、ブロックチェーンやスマートフォンによる送金システムなどの仕組みが発展してきています。また、ESG投資などの環境も整いつつあり、投資家とSDGsを結ぶチャネルが徐々に拡大しつつあります。そうしたテクノロジーや環境を駆使し、資金の流れをSDGsに回していく仕組みづくりが必要でしょう」

気候変動に歯止めをかけられる「最後の世代」

地震、大雨、猛暑…。今年、日本は大きな災害が多かったが、こうした災害は世界中で起こっている。

「気候変動は、私たちが対応する速度以上に速く進んでいます。私たちこそが、気候変動に歯止めを打つことのできる最後の世代だという危機感を持って、SDGsに取り組むことが必要だと考えています」

インド洋のモルディブで、プラスチックゴミの山になっているビーチを見た根本氏。放っておけば、2050年には廃棄プラスチックが海に棲む魚より重量ベースで多くなると知り、衝撃を受けたという。

「モルディブのビーチを見て以来、マイボトルを使用するようにしています。ペットボトルをマイボトルに替えるだけで、資源ゴミの日に出すプラゴミがグッと減るんです。SDGsを暮らしに浸透させるには、問題を『自分ごと化』することが重要です。難しいことではなく、ペットボトルを控えるだけでも、それを多くの人が実践すれば、大きな力となるのです」。

日本では1年間に100万トン、30億着もの衣料品が捨てられていると見られているが、これは、ゴール12『つくる責任つかう責任』に照らすと問題では、レストランでフカヒレを注文する前に、これは持続可能な漁業なのか。少し想像力をたくましくするだけで、違って見えることがたくさんある。

今年に入り、学習指導要領にSDGsが盛り込まれることを前提に、教育関係者からのアプローチが増えてきたという。

「学校で取り上げられれば、裾野はずいぶん広がります。こうした動きのなかで、教職員に対する手引きがつくられたり、教科書を販売する出版社がSDGsの特設Webサイトをつくったり、大手新聞社の子ども新聞などでSDGsが取り上げられたりと、嬉しい動きが出てきています」

国連広報センターでは今年、高校生以上の若い世代を対象に、SDGsをテーマにしたフォトコンテストを開催。SDGsを身近に感じ、自分ごと化することで、それがどう自分につながっているのか、自分にどんなアクションができるのか考えるきっかけをつくり、広く一般への浸透に力を入れる。

SDGsをポジティブな遺産に

国連広報センターでの今後の取り組みとしては、2020年に向け、SDGsの実現を中心に据えた東京オリンピック・パラリンピックとの接点に重点を置く。

創業のきっかけとなったバングラデシュでは、グラミン銀行の創設者であるムハマド・ユヌス氏が、「広報としては、『誰一人置き去りにしない』という原則は、おりに触れてリマインドしていきたいと考えています」

SDGsはビジネスチャンスにもつながるが、そこだけを見てしまうと、大原則を見失う。SDGsとMDGsの大きな違いは、MDGsが平均値を見ていたのに対し、SDGsはラストワンマイル、すべての人を最初からすくい上げるということを原則としていることだ。これは人が人としてあまねく持っている人権に根ざしたものの考え方だといえる。

今年は世界人権宣言が採択されて70周年になる。採択された当時、法的拘束力のなかった世界人権宣言は、いまや、しっかりと法的拘束力を持つものになっている。人権宣言を作った人たちの先見性、それを条約や規約に落とし込んだ先人の粘り強さには、敬意を表するものがある。そういうものの上にSDGsは成り立っている。

「未来の人がSDGsを振り返ったとき、人類のポジティブな遺産だと語ってもらうには、私たちがいま、どう魂を込めるのか、息を吹き込むかにかかっていると思います。後世の人が振り返ったとき、SDGsが教科書にポジティブな遺産として刻まれていればいいですね。2100年、国の管理している一級河川の洪水リスクは今の4倍になると見られています。放っておけば、このままではそうなるのです。3周年を機に、SDGsの大切さについて、もう一度考え、思いを新たに取り組んでいきたいと考えています」

記事の公開期限:2019年11月24日

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