Sustainable development goals

ニュース・コラム

“考え抜く”人を育てる、ポーラの100年経営

家事で荒れた妻の手を何とかしたいと、創業者である鈴木忍氏がクリームを開発したことが創業の原点であるポーラ。

地域の女性が訪問販売員として化粧品を販売するスタイルで成長を続け、現在では百貨店やEC、海外へも進出。ハイプレステージブランドとして女性の羨望を集める。

同社は昨年創業90周年を迎え、今年、及川美紀氏が新社長に就任。創業100周年を見据えたビジョンを伺った。

社員に思考を促す“独自価値”

ポーラが創業90周年を迎えた昨年9月、広島県で活動するビューティーディレクター(委託販売契約を結んだ化粧品販売員)・福原キクヱ氏が、ギネス世界記録において“最高齢のビューティーアドバイザー Oldest beauty advisor”として認定された。福原氏はなんと御年99歳(2020年1月21日現在)。同社がこれほどまでに女性が長く活躍できる場を提供していることに驚かされた方も多いだろう。

そんな同社は“Science. Art. Love.”を独自価値と定め、“私たちは、美と健康を願う人々および社会の永続的幸福を実現します。”という理念を掲げている。

「“サイエンス”は製品の品質を支える必須の要素です。けれど、人と人とのつながりや相手への思いやりがなければ課題の解決はできません。そこで“ラブ”も必要だと考えました。そして、両者をつなぐものとして“アート”という言葉を選びました」。

この“アート”という言葉に厳密な定義はないと及川氏はいう。そのため、人それぞれ異なる捉え方をする。社内ではさまざまな意見が出たという。

「何もないところから価値を生み出すのがアートと考える人がいれば、感じること・伝えることをアートにあてはめる人もいるでしょう。サイエンス、アート、ラブを並列にせずに、アートの中にラブやサイエンスを入れてみる人もいるかもしれません。自由に解釈していいのです。あえてこういった“考える余地”を持たせました」と及川氏は笑う。

及川氏自身は、“アート=人がつくりだすもの”と捉えていると話す。

「先人が創造したアートは時代を超えて人々を惹きつけ、時代を経れば経るだけ、心を震わせる人の数を増やしています。これは非常に魅力的なあり方ですし、私たちもこうありたいと思いました。また、“時”が価値になる“アート”を加えることで時間軸が生まれると考えました。結果、社会や未来への責任、という広がりが出たと感じています」。

「100周年をどう迎えるか。そのとき私たちはどうあるべきか?と考えたとき、それにふさわしい社会的価値や存在意義がないと経営は続かないと感じました。そこから改めて、100年続く事業展開の思考を深めました」。

手が荒れた妻のために、創業者の鈴木忍が乳鉢ひとつでつくりあげたクリームがポーラの原点。

昨年9月に創業90周年を迎えた同社では、〈ポーラ ザ ハンドクリーム アニバーサリーキット〉を限定発売した。
90周年にあたっては、「つながりをつくることで広がる可能性」をコンセプトにしており、チューブ2本でひとつのキットという本製品は、自分で楽しむことはもちろん、2本のうちの1本を別の人へシェアするといった楽しみ方も提案している

(限定品のため在庫がなくなり次第、販売終了)

“マイノリティ”の包摂に必要な相互理解と環境整備

及川氏は自身がキャリアを積む過程で、特にビジネスの現場において女性が歩む道のりが平坦ではないことを痛感してきたと明かす。

「“子どもを置いて出張?” “飲み会の参加必須!”の時代は一昔前になってはきましたが、女性はまだまだ立場も就労の機会も与えられていないと感じます。今回、私の社長就任にあたり、あちこちで“初の女性社長”が冠になったことも現状を象徴しているでしょう。女性は企業においてまだまだマイノリティの存在なのです」。

女性が結婚や出産・子育てなどで制約を受けるのは事実だ。だからといって、「女性は仕方がない」「役に立てずすまない」と片付けてしまってはいけない。及川氏は、重要なことは相互理解と環境整備だという。

「相互に理解し、環境を整備することで、マイノリティを社会に包摂していくことは可能です。もちろん、マイノリティである側も発信していかなくてはなりません」。

“マイノリティ”という表現に抵抗感を持つ女性もいる。しかし及川氏は「マジョリティになるためには、マイノリティであることを自覚することから始めないと」と指摘する。

こうした経験や思いから、及川氏は自社の100周年に向け「事業を通し、女性活躍、そして地域社会の活性化に取り組みたい」と力を込める。

ポーラ製品の最高峰ブランド〈B.A〉のクリーム。
シンプルで高級感のある容器デザインには、愛着が持てるようにとの思いが込められている(左)。

同社では1980年代から環境負荷軽減のため、リフィル(右)の販売も行っており、

現在は商品の輸送など、物流にかかわる環境負荷の低減にも取り組んでいるという

女性活躍と地域活性化の相乗効果を生み出す

現在同社では、本社で雇用される社員のほか、全国約4,000店に及ぶショップオーナー、および約4万人のビューティーディレクターたちと委託販売制度に基づいた個人事業主として契約している。全国津々浦々にあるエステサロンや販売店では、幅広い年齢層の女性がショップオーナーとして活躍している。

「女性の化粧品販売員やエステティシャンは、社内、また美容業界内においてすでにマジョリティです。私たちの今後の事業における重要なポイントは、女性ビジネスリーダーを育てることです」。

リーダーがたくさん育っても、内向きであるうちはマイノリティのままだと続ける。

「地域の会合のメンバーや商工会議所の会員になるなど、女性たちが地域社会・地域経済に参画して初めて女性活躍の実現につながります」。

ポーラ製品の販売店は人口流出や過疎化に悩む地方にも存在する。市場の状況だけをとらえれば厳しい部分もある。しかし、地方のショップオーナーのなかには親子代々、4世代で経営してきた店舗もある。

「地域に根づいたショップオーナーの皆さんは新しい手法に果敢にチャレジする、ベンチャースピリッツを持った経営者たちです。どう事業を継続していくか、どう地域社会の好循環を生み出していこうかと、地域の持続可能性を自分の課題と捉えて行動しています。女性リーダー活躍と地域活性化は相乗効果を生み出せる視点だと感じています」。

地域に根差して働く女性たちの力は、自然と、地域社会を盛り上げたり、課題解決に活かされたりするようになってきた。そこで同社が始めたのが〈うつくしくはたらくプロジェクト〉だ。ショップを拠点にカフェやビーズ職人とコラボレーションをしたり、自治体とタイアップをしたりと、すでに各地で地域の市場性に合わせたさまざまな取り組みが行われており、ポーラブランドの浸透や地域コミュニティとの絆の醸成につながっている。

地域を熟知し、地域の将来を模索する“ブレーン”を多数抱えていることは、100周年、そしてその先の経営を見据えるとき、同社の大きな強みとなっている。

〈うつくしくはたらくプロジェクト〉成果発表会の様子。

ショップオーナーたちから自然発生的に始まった取り組みが、地域の活性化だけでなく

同社と地域をより近づけることにもつながっている。

この場から、新たな価値や事業が創出されることも期待できそうだ

及川氏は、「このプロジェクトのいいところは、オーナーたちの自然発生的な取り組みからはじまったところです。こういった動きが出てきたのは必然だと感じています」と笑顔で語る。また、取り組みのコンセプトからは、その地域で長く働きたいという女性たちの意志も感じているという。

高度経済成長期は将来の働き方など考えなくてもよい時代だった。しかし今、資本主義自体が揺らぎ、ビジネスにも高い倫理観が求められている。デジタル化の波は、店舗に行かずとも商品を簡単に買えるようにした。

「地域に根差す意味、人と人とがつながる意味のようなものを主体的に考えていることがコンセプトに表れているのだと思います。地域社会に女性リーダーが増えれば、真の女性活躍になり、マジョリティになっていくと信じます」。

AI時代に求められる人間性と思考力

2019年1月、同社は人材育成システム〈ポーラ ユニバーシティ〉をスタートした。

美容技術をベースに、接遇や人間性を磨くことを学び、“また会いたい”と思わせる人材になることを目指す。

「私たちのサービスは、意思決定がお客さまの側にあります。技術がよいのは当然で、それだけでは忘れられてしまいます。だから人間性を磨くことも重視しています。人が人を育てる、という点が重要です。よい人が磨かねばよい人は育ちません」。

このコンセプトは、「AIが出てきたからこそ、人の価値を見直すべき」という及川氏の考えと重なる。

「AIの台頭によって、将来、半分の仕事がなくなるといわれています。では、私たちの仕事はなくなるのか? なくならない、と思います。人が人を求めるのは永遠ですから。人にしかない価値をつけることが重要になると考えます。そしてそれは、“また会いたい”というお客さまの行動となって表れると思うのです」。

〈うつくしくはたらくプロジェクト〉や〈ポーラ ユニバーシティ〉の役割、そして“人の価値”を考えるなかで、及川氏はひとつの答えにたどりついたと続ける。それは、「AIは“道具”でなければならない」ということだ。「どんなにいい車でも運転者の技術が悪ければ、危険な道具になってしまいます。AIも同じで、どんな倫理観を持った人が使うかが問われています。そして、経済だけでなく環境などにもより配慮しなければならない今、倫理観を持って思考し、意思決定することが一層求められると考えています」。

一営業担当からさまざまな現場・ポジションを経験し、自らを“たたき上げ”と称する及川氏。同社の礎を築いた女性たちの葛藤や希望を力に、次の100年を構想する。

及川美紀氏
株式会社ポーラ 代表取締役社長

1991年東京女子大学卒業。同年ポーラ化粧品本舗(現ポーラ)入社。入社後まもなく販売会社に出向し、埼玉エリアマネージャー、商品企画部長を歴任後、2012年に商品企画・宣伝担当の執行役員、2014年に商品企画・宣伝・美容研究・デザイン研究担当の取締役に就任。2020年1月より代表取締役社長。

掲載誌

関連記事