SDGsをどう理解するか 第1回(CSR・CSVとの整理)
伊藤園顧問の笹谷秀光氏による連載コラム「コミュニケーション戦略におけるSDGs」が始まります。SDGs(持続可能な開発目標)は、採択から3年が過ぎて少しずつ認知も広がっています。一方で、知ってはいるけれども、どうやって活用すべきか?という点は、多くの組織ではこれからだと思います。
そこで、CSRに長く取り組み、第1回SDGsアワードを受賞に導き、「SDGsの基礎」の執筆者でもある伊藤園顧問の笹谷氏に、コミュニケーション戦略にどう活用すれば良いか?という視点で執筆いただきます。第1回は、SDGsをどう理解するか?です。ぜひ、お役立てください。
1.持続可能性新時代におけるグローバル競争戦略
企業経営は、社会・環境への要請の高まり、ICTの進化、グローバル化の深化など内外の激しい変化の中で革新的な対応が求められている。ESG、すなわち、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)への配慮を企業に対し求めるさまざまな関係者の動きが世界的に強まっている。特に、投資家からのESG投資が加速してきた。また、グローバル化するサプライチェーンの中でESG対応を取引相手から求められるほか、ESGに関心の高いミレニアル世代の消費者への対応など、すべてのステークホルダーの動きに注視が必要である。
筆者は、31年間の農林水産省での行政経験(うち3年間は外務省、3年間は環境省に出向)と、株式会社伊藤園の企業現場での10年間の企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility:CSR)担当の経験から、2015年は実に「節目」の年であったと実感する。ESGすべての面で2015年に重要な動きがあった。Eではパリ協定、EとSとGで持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)、Gではコーポレートガバナンス・コードの適用である。そこで、この年は「ESG元年」であると筆者は言ってきた。持続可能性を理解し経営に入れ込まなければ齟齬をきたす「持続可能性新時代」の幕開けであり、潮目が大きく変わった。
この激変の中で、企業経営にとって指針になりうる国際的な共通言語が望まれた。2015年9月の国連サミットで採択されたSDGsは、2030年を目標年次とする持続可能性の共通言語として活用することができる。これをうまく活用すれば、ぎりぎり2020年の東京五輪・パラリンピック(以下、「五輪」と略す)に間に合い、2025年の万国博覧会の大阪・関西招致構想にもつながる。五輪や万博ではSDGsを念頭において調達、イベント運営のルールが策定されていくからだ。そして、五輪後にSDGsの目標年次2030年を目指していくことになる。このようなタイムラインの「締め切り効果」も活かして、SDGsの達成を目指す。2018年はSDGs実装元年とすべき年である(図表1)。

図表1 持続可能性をめぐるタイムライン
本シリーズでは、まずはSDGs理解の前提として、CSRやCSVを軸に見ておく。そのうえで、SDGsがなぜ企業に必要か、その効果は何か、ESGとの関係は何かといった現下の経営ニーズの高い論点を扱う。企業はもちろん、政策関係者、自治体、大学、メディア、NPO/NGOなど幅広い関係者にとっての理解の一助となれば幸いである。
2.CSR再考とCSV
(1) CSR再考―ISO26000による「社会対応力」の醸成
企業と社会的責任の関係や持続可能な社会づくりについては、2010年発行の「社会的責任の手引」(ISO26000)が羅針盤機能を発揮する(図表2)。

図表2 国際標準ISO26000の特徴とESGとの関連
ISO26000は企業などの組織が社会課題に向き合ううえでの基本的考え方や「To doリスト」を示す。社会・環境課題対応の組織内へのいわば「実装マニュアル」である。
これは法的拘束力のない規格で、いわゆるソフトローではあるが、最近国際合意がなかなか難しくなっている中で世界的合意があって網羅性も高く、CSRを考えるうえでは汎用性が極めて高い。組織全般の手引としてできたが、もちろんCSRのガイダンスにもなる。国内では日本工業規格(JIS規格)にもなっていて、政府内の議論の基準である。
その優れた特徴は、それまでのフィランソロピー(慈善活動)的なCSRではなく、「本業のCSR」が社会的責任を遂行するうえで基本であるとのCSRの定義を示した点である。 加えて、「To doリスト」として、7つの中核主題を示した。組織統治を固めたうえで、人権、労働慣行、環境、公正な事業慣行、消費者課題、コミュニティ課題に対処すべきとした。非常にバランスの良いまとめになっている。
(2) CSRとCSV、ESG
ここで、CSRの訳語の社会的「責任」という用語のニュアンスが少し狭いので、日本ではCSRがともすれば受け身型の意味になる。そのため、筆者は、「Response+ability」=社会対応力と捉え直す必要があると考えている。本業のCSRで企業の「社会対応力」を醸成し、SDGsなどの社会課題に対し本業で対処していく組織の力を引き出すことができる。
ISO26000発行(2010年11月)直後の2011年1月に、マイケル・ポーターらが共有価値の創造(Creating Shared Value:CSV)、つまり、社会価値と経済価値の同時実現という考え方を提唱した。
ISO26000で本業のCSRに切り替えておけば、CSRの基本を整えたうえで、経営上の重要課題を抽出して、このCSVという社会課題解決型の競争戦略を活用することができる。
また、ESGについても、7つの中核主題の真ん中に「G」があり、環境の「E」があり、残りが「S」と整理することができる。現在「S」の部分がかなり混乱し、論者によって随分異なっている。そこで、世界標準のISO26000にもう一度立ち戻って、ここに示されている項目を参照すれば、世界合意のある整理になりうると考える(図表2の右図)。
3.なぜ今SDGsか―持続可能性新時代の共通言語
(1) SDGsとは何か
ISO26000やCSVを深めるうえでも役立ち、変化の激しい国際情勢の中で企業の中長期的な成長戦略を描くうえで国際的な共通言語があると心強い。それがSDGsである。

図表3
SDGsは2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ ―我々の世界を変革する―」に記載された30年までの国際目標である。その特色は、地球上の誰一人として取り残さないとの誓いのもとで、途上国、先進国を問わず取り組み、政府等のみならず企業の役割も重視している。ユニバーサル(普遍的)なもので、持続可能な社会づくりのための「共通言語」といえる。
SDGsは、深刻化する現下の地球規模課題の分析を踏まえ、持続可能な世界を実現するための17の目標と169のターゲット、230の指標という広範な施策から構成され、17目標は図のように分かりやすいピクトグラム(絵文字)で表現されている(図表3)。
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