SDGsをどう理解するか第2回(ESG投資との整理)
伊藤園顧問の笹谷秀光氏による連載コラム「コミュニケーション戦略におけるSDGs」第2回目のコラムです。
前回の第1回の記事は、多くの方にお読み頂き、「SDGsをどのように理解すべきか?」というテーマへの関心の高さが伺えました。その間に、「SDGs万博」と称されている大阪万博の2025年開催が決定するなど、SDGsの認知や関心の拡大に拍車をかける状況もあります。
第2回は、前回のSDGsとCSRに続き、現下ではSDGsがESGの文脈で語られることが多いですが、今回はその関係について解説頂きました。今回からご覧の方は、ぜひ、第1回分と合わせてご覧ください。
1、高まる「持続可能性」への要請
「持続可能性」という概念は、1987年の国連『環境と開発に関する世界委員会(ブルントラント委員会)』が公表した報告書『我ら共有の未来(Our Common Future)』で提起された。同報告書では、「持続可能な開発」を「将来の世代の欲求を満たしつつ,現在の世代の欲求も満足させるような開発」と定義している。
その後、21世紀に入り経済、環境、社会の「トリプルボトムライン」の重視が定着し、2010年のISO26000による「社会的責任の手引」の発行と、次々に社会・環境の持続可能性への関係者の役割に対する要請が高まってきた。
そして、2015年にこれまでの国際開発目標を統合した「ミレニアム開発目標」であるMDGsの後継としてSDGsが登場した。

2、ESG投資を加速化させた年金運用機関
一方、ESG投資は、2006年の国連責任投資原則(PRI)の提起がきっかけである。PRIとは、ESG課題を投資に反映させるため、2006年にコフィー・アナン元国連事務総長が提唱し、各国連機関が推進している世界共通の投資ガイドラインとしての性格を持つものだが、これ以降、PRIへの署名機関の数が急速に増加し、投資額も相当に増えている。投資額22.9兆ドルの地域別割合を見てみると、ヨーロッパが非常に多く52.6%、続いて米国が38.1%で、日本は2.1%である(出所: GSIA(2016)Global Sustainable Investment Review)。日本はまだまだこれからだが、今後急速に加速していくのは間違いない。

日本でのESG投資の加速要因の一つが、公的年金(厚生年金保険及び国民年金)の管理・運用等を行う運用資産額約160兆円という世界最大の機関投資家である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が2015年9月にPRIに署名し、ESG投資の推進を明確化したことである。
下の図を見ても分かるようにGPIFでは、PRIへの署名とSDGsをリンクさせ、ESG重視が良質な投資機会の増加につながり、事業会社がSDGsを事業機会の増加にもリスク回避にも使って競争優位につなげることを推奨している。

GPIFホームページより(https://www.gpif.go.jp/investment/esg/#b)
このように投資家と事業会社の間のWin-Win関係を築くためにはどうすればよいか、こういうことが今のポイントになっている。日本では投資サイドがけん引し、経済界ではESGと裏腹の関係でSDGsが話題になっているのが現下の特徴である。
3、経営者のコミットメントを求めた『伊藤レポート 2.0』とは?
日本では、政策面では、2013年の安倍政権の成長戦略『日本再興戦略』の中で策定が謳われ翌年金融庁により策定された機関投資家の行動規範である『日本版スチュワードシップ・コード』と日本再興戦略改定版(2014年6月)で示され2015年から導入された上場企業が守るべき行動規範であるコーポレートガバナンス・コードが重要である。特に、経済主体のガバナンス「G」が重視されている。
また、経済産業省がまとめた『「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」プロジェクト最終報告書(伊藤レポート)』(2014年8月、座長:伊藤邦雄 一橋大学大学院商学研究科教授)は、こうした一連の改革の包括的な分析を行うとともに、資本生産性を高めるためのROE(自己資本利益率)を重視する経営や企業と投資家の対話促進に向けた政策提言を行った。その後、企業や投資家の間で企業価値向上や対話が進み、ROEのボリュームゾーン(東証一部上場企業)は、2014年当時の2.5%~5%から2016年時点では5%~7.5%まで上昇している。


さらに、2017年には、企業のESG対応について『伊藤レポート2.0』(「持続的成長に向けた長期投資(ESG・無形資産投資)研究会」報告書)が公表され、その中で価値創造ガイダンスを示し企業の競争戦略の早急な見直しが提唱されている。
これらのコードは2018年に改訂され、企業統治と持続可能性についての経営者のコミットメントが強化されている。以上を踏まえ、持続可能性についての要請を的確に経営に埋め込むための新たなサステナビリティ・マネジメントが求められている。
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