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脱・既存プラを実現するイノベーション(前編)

記事提供:環境ビジネス

木材セルロースを主原料とする包装材は、コンポスト可能で軽量。期待がかかる
©VTT

2018年9月末、カナダで行われたG7環境相会議。そこでも、国連のSDGsやパリ協定への動きとともに、海洋プラごみや脱プラが討議された。

欧州発の脱プラムーブメントはようやく日本にも到来し、環境省が来年にはバイオ・プラ開発の企業に補助金をつけるとか、脱プラ推進事業には投資マネーが付いてくるなど、ビジネスパーソンや知識層の間ではそれなりに意識が高まっているようだ。しかし、コンビニでのレジ袋消費や名店街で売られる菓子折りの過剰包装を見ていると、どこ吹く風との感も否めない。

今回、次回と2回に分け、欧州で芽吹く、脱プラを目指すイノベーションを紹介する。

クラゲの分泌物で、目に見えないマイクロプラスチックをフィルターしようというユニークなアイデアも

クラゲの分泌物で、目に見えないマイクロプラスチックをフィルターしようというユニークなアイデアも
©Tihomir Makovec -GoJelly

イノベーション創発のため、長期視点で投資・支援

新たな技術のアイディアや実用可能性の高いイノべーションは、一つの国の、一つの大学の、一つの企業の研究者から、1~2年という短期間で、そう簡単に生まれてくるものではあるまい。

EUは、多国間の異なる畑の研究者や機関が協力して普遍的テーマに挑むプロジェクトに対し、優先的に多年次にわたる資金を投じてきた。

現行の7年間の枠組み(2014~2020年)は「Horizon 2020」と呼ばれ、対象となる分野に「バイオ・エコノミーやグリーン・エコノミーに資するもの」が含まれ、気候・環境・資源効率および再生可能原材料の研究、持続可能な農業・漁業、食の安全などに縦断的に関与するテーマとして、海洋プラごみや脱プラに関するプロジェクトが積極的に提案され、選ばれてきた。その柱は、科学と産業が協力して社会的課題に挑み、明日を切り開くイノベーションを育むこと。多国間・多分野・多業種間プロジェクトであることが助成金獲得の条件で、EU外からの参加も歓迎されている。

欧州各国には、環境や持続可能な発展に専門化したきわめて優れたシンクタンクやコンサルティング会社があるのも特徴で、そこが主導する研究開発プロジェクトは、それぞれの国の予算はもちろんだがEU内の大手企業や欧州投資銀行などさまざまな事業体から、ネットワーキングや資金的な支援がつく。どの国の研究者がノーベル賞をとるか、どの企業が一番乗りするかではなく、地球規模の課題に総力を挙げて解決策を見出すことに目標が置かれているようだ。

さまざまな課題設定で、幅広いアイディアや頭脳が挑むプロジェクトの数は膨大だ。今回は、そのなかから興味深いプロジェクトのいくつかを紹介しよう。興味を持ったら、ぜひそれぞれを、そしてここに挙げた以外のプロジェクトを調べてみてほしい。問題だらけの地球環境を前に「絶望している暇はない!」と元気なプロジェクトばかりだ。

事例1:紙おむつにもバイオ・プラを ― PolyBioSkin

前号までに紹介してきた、プラスチックの旗手「バイオ・プラスチック」業界が支援しているプロジェクトの筆頭がPolyBioSkin。2017~2020年までの3カ年の共同研究プロジェクトだ。

期待の高まるバイオ・プラスチックだが、使い捨て食器や包装材での使用を越えて、医療、衛生、化粧品分野で、「肌に直接触れる用途」への使用を考えれば、性能や人体への影響はより重視される。そこで、これらの用途に絞りこんだ研究を進めようというのがこのプロジェクト。(1)生理用品や紙おむつ、(2)絆創膏、(3)フェイシャル・パックの3製品カテゴリーで、一般消費材としてバイオ・プラの実用化実験を精力的に進めている。

This project has received funding from the Bio Based Industries Joint Undertaking under the European Union’s Horizon 2020 research and innovation programme under grant agreement No 745839

This project has received funding from the Bio Based Industries Joint Undertaking under the European Union’s Horizon 2020 research and innovation programme under grant agreement No 745839
©PolyBioSkin

リードをとるのは、スペイン・バルセロナのエンジニアリング会社IRISとイタリアPISA大学の工学部。英国ウエストミンスター大学、ベルギーのゲント大学ほか、それぞれの分野を専門とする小さな企業がコンソーシアムを組んで共同参画。European Bioplasticsも支援、Horizon 2020の助成金も付いている。

事例2:マイクロプラ対策の切り札はクラゲ? — 欧州中の研究者が挑む、GoJelly

吸着性に優れたクラゲの分泌物を抽出する

吸着性に優れたクラゲの分泌物を抽出する
©Tjasa Kogovsek -GoJelly

英語でJelly Fishとはクラゲのこと。中華料理では高級珍味とされるが、西洋では、海中を不気味に浮遊し、刺されると酷い症状が出たりするため、海の嫌われ者だ。そのクラゲの成分が高い吸着性を持つことに着目したのがGoJellyのプロジェクトだ。

「クラゲの経済効用を研究する学究グループはとても小さいのよ」と教えてくれたのは、スロヴェニア国立生物学研究所・海洋生物研究部門のアン・ロッター博士。海洋プラごみ問題が露呈したとき、ドイツやノルウェーなどの研究者とともに「人類の重大課題をクラゲで何とかしよう!」と立ち上がったのだという。Horizon 2020に提案し、助成金を得たことから、欧州中の若い研究者が意気投合し、夢を持って懸命に取り組んでいるのだと明るく教えてくれた。

クラゲの分泌物を主成分とするゼラチン状のフィルターを作り、海中に浮遊するマイクロプラスチックを取り除こうというプロジェクトだが、どの種類のクラゲが適しているのか、どう捕獲するのがよいか、どう産業ベースでフィルターを製造し商品化するかなど、まだまだ道のりは長そう。だが、クラゲの有効活用が実現すれば、漁業関係者へ新しい仕事を提供できるほか、分泌物を抽出した後のタンパク質やコラーゲンは食糧・飼料・肥料などとして有用なことからも期待がかかる。ノルウェー海、バルト海、地中海などで、欧州中のさまざまな業界を巻き込んで実験が進められている。

スロヴェニアの国立水族館では、海洋プラごみの問題とクラゲを使った対策のワークショップが子どもたちに人気
スロヴェニアの国立水族館では、海洋プラごみの問題とクラゲを使った対策のワークショップが子どもたちに人気
©Ana Jancar -GoJelly

子どもたちにもわかりやすい、楽しいパンフレットやクラゲを使ったレシピブックなども開発し、社会に受け入れられやすく親しまれる循環型のグリーンソリューションとしてアピール。ドイツ・ノルウェー・スロヴェニアの若手研究者をはじめ、8カ国15機関からなる多国籍コンソーシアムには、中国の大学も加わっているのだという。

事例3:ダボス会議で表彰された木材由来プラスチック! ― 3~5年での商業化を目指すVTT

木材セルロースを主原料とする包装材は、コンポスト可能で軽量。期待がかかる

木材セルロースを主原料とする包装材は、コンポスト可能で軽量。期待がかかる
©VTT

北欧といえば、再エネの世界でも、木質バイオマスが積極的に実用化されている。そこで、フィンランド最大の技術研究所VTTは、廃プラ問題に挑む持続可能なソリューションとして、木材セルロースを原料とする包装材を開発。2017年、マイクロプラスチック対策として応募された数多くのプロジェクトの中から、他の4つのプロジェクトとともに受賞し、2018年のダボス会議で表彰された。

木材セルロースに、その他の補完的な生分解性素材を混ぜて作られるこの包装材は、他のバイオ・プラと互角以上の性能を持ち、既存の包装材製造設備をほぼそのまま使用できる点で産業界からの期待は高い。現状では、生鮮食品ではなく、ナッツ、シリアル、コーヒーといった油脂分を多く含む乾燥した賞味期限の長い食品向き。3~5年後には商業ベースに乗るという。

資源循環経済への移行には、多様なセクターの協働が必要

「新時代の循環経済では、プラスチックを廃棄せず、海洋に漏らさない。今までとは異質な、産業・政府・起業家や研究者・社会設計者による強い責任感と協力体制がなければ実現することはできない。すべてのプラスチック素材が再利用され、リサイクルされ、安全に土に返されなければ」――。

完全な循環経済の早期実現を力強く唱える英国のエレン・マッカーサー財団創始者の言葉だ。循環経済実現のためには、あらゆる可能性に向け、国境や立場を越えて、地球規模の協働に参加しなければならないだろう。

記事の公開期限:2019年01月27日

連載

  1. 脱・既存プラを実現するイノベーション(前編)
  2. 脱・既存プラを実現するイノベーション(後編)
栗田 路子

栗田 路子(くりた・みちこ)

ライター・ジャーナリスト

EU(欧州連合)諸機関が集まるベルギー・ブリュッセルをベースに活動。上智大学卒業。米国およびベルギーの経営大学院にてMBA取得。メディア・コーディネートや通訳と同時に、執筆を通して、EUおよびベルギーの政治・社会事情(教育、環境、福祉など)を発信中。環境ビジネス、ハフィントンポスト、共同通信 News47、EU Mag(駐日EU代表部公式webmagazine)、SpeakUp Oversea’sなどに執筆。

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