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脱・既存プラを実現するイノベーション(後編)

記事提供:環境ビジネス

化石燃料プラを生分解性プラに変換できたら…。こんな魔法のようなことに挑戦する若く国際的な研究チーム ©Peter Winandy - P4SB

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プラごみの大量排出国ながら、消極的な対応が国際社会の批判を浴びてきた日本。2018年後半になって、大手企業や環境省などがようやく重い腰を上げ始めた。10月に発表された「プラスチック資源循環戦略」では、使い捨てプラを2030年までに25%削減する数値目標を掲げ、遅ればせながらのレジ袋有料義務化が明記されたほか、バイオ・プラの大量導入や、リサイクル率大幅向上を盛り込んだ。

だが、バイオ・プラなら必ずしも生分解するわけではなく、その実用化には地道な研究開発努力が必須。プラごみを焼却するサーマルリサイクルも良しとしてしまう日本のリサイクルでは、二酸化炭素放出も問題だが、有限資源をできるだけ閉鎖循環しようという考えに逆行してしまうということを、前号までで解説してきた。既存プラに依存してきた社会設計そのものを大転換させる必要があり、社会科学的な知見も総動員した多角的な研究開発が求められている。

今回は、地球に足跡(フットプリント)を残さないための、社会科学分野からの知見も結集した、総合的な「廃プラゼロ」や「社会設計変革」に挑むイノベーションを紹介してみよう。

EUが提唱する循環経済の概念図 ©European Union 2018

EUが提唱する循環経済の概念図 ©European Union 2018

事例1:「電子レンジ」が地球を救う? ― アパレル大手H&Mも参画するDEMETO

「我々が目指す100%閉鎖循環を達成するためには、プラの循環ループに、資源を閉じ込める技術を開発するしかない!」とは、このプロジェクトに投資するアパレル大手H&M(スウェーデン)の言葉だ。そして、世界有数の電子レンジメーカー(The Fricke and Mallah、独)も同プロジェクトの中心メンバー。なぜなら、地球規模のプラごみ大問題を解決してくれるブラックボックスは「電子レンジ」かもしれないからだ。

研究開発プロジェクトDEMETOは、欧州中から、大手消費財メーカー、小さなプラ処理技術会社、大学や研究所の知見が大集合。その狙いは「廃棄プラを再生資源化して閉鎖循環させよう」というもの。焼却や環境放置で無駄になるプラスチックを極限まで減らし、プラスチックの閉鎖循環を実現させようというのだ。その中心技術は、既存プラスチックの重合体(ポリマー)をマイクロ波(極超短波)で分解し、リサイクル可能な再生資源に変換させてしまおうというもの。プラスチック・リサイクルの革命とも呼べると期待されている。

DEMETOのロードマップ。すでに産業化パイロット工場まで進まんとしているところだ。

DEMETOのロードマップ。すでに産業化パイロット工場まで進まんとしているところだ。

同プロジェクトには、スイスのGR3Nが持つポリマー分解技術を基に、デンマーク工科大学のほか、3V Tech、ACTOR、Processi Innovativiなどのプロセスエンジニアリング会社、PETフレークを製造する小企業PETCIAなどの技術を結集。プラスチック成型メーカー団体(EUPC)、世界有数のPETメーカーNOGROUP、アウトドア製品の業界団体なども資金提供しており、既存のプラスチック産業で台頭してきた産業界が、産業構造そのものの転換に主導権をとって、未来につなげようと一生懸命だ。このプロジェクトにも、EUの研究助成金Horizon2020が拠出されている。

事例2:廃プラを生分解性プラに変換? — P4SB

化石燃料プラを生分解性プラに変換できたら…。こんな魔法のようなことに挑戦する若く国際的な研究チーム ©Peter Winandy - P4SB

化石燃料プラを生分解性プラに変換できたら…。
こんな魔法のようなことに挑戦する若く国際的な研究チーム ©Peter Winandy - P4SB

同じように、既存プラを再生資源化することで、プラの閉鎖循環を達成しようと挑戦するまったく別の試みもある。

合成生物学の知見から自然のバクテリアに手を加え、従来のプラスチック(PETやポリウレタン)を生分解性バイオ・プラの一種PHAに変換する―。これが実現すれば、廃棄されるPETやポリウレタンのリサイクル率を大幅に引き上げ、廃プラを削減するばかりでなく、新たなプラ資源を創造する画期的なものになる。こんな革新的な技術開発に挑むのが、国際的な若い研究者によるプロジェクトP4SBだ。

コア技術を持つのは、アイルランドの小さな技術会社Bioplastech。同社は、持続可能な原料や廃棄資源を素に、生分解性をもちコンポスト可能なポリマーを作る技術で特許を持つ。これに、バイオテクノロジー大手Proteus社(仏)、産業規模の合成生物学技術を持つBacMine(西)、廃プラを用いた建材製造技術を持つ小さな同族会社SOPREMA(仏)などが参画。

学究界からは、ドイツのアーヘン大学、ブラウンシュヴァイク工科大学、ライプチヒ大学、アイルランドのダブリン大学、英国のサリー大学、フランスのストラスブール大学、オランダのワーゲニンゲン大学のほか、スペイン最大の研究機関CSIC、フランス国立科学研究所CNRS、スイスのETH連邦技術研究所、ドイツの環境リサーチセンターHelmholtzや連邦環境基金(DBU)、そして、EU研究イノベーション総局から専門家が顧問についているこのプロジェクト。もちろん、EUのHorizon2020の助成金も付き、将来に大きな期待がかかる。

資源循環経済への移行を、主導的に切り開く

2回にわたり、イノベーション技術をいくつか紹介してきたが、欧州では化石資源経済からの離脱を成功させ、資源循環経済にソフトランディングさせていくためのプロセス分析やプランニングにも多くの知見と研究助成資金が投じられている。我々が、戦後の70年あまり発展し続けてきた化石燃料依存の経済や社会制度は、成り行き任せにしていては、地球に足跡を残さない形で、スムーズに移行することはできないと考えるからだ。その好例が、STAR-ProBioとRoadToBioと言えるだろう。

STAR-ProBioプロジェクトは、イタリアのSapienza大学が中心となり、欧州11カ国15の組織が参画。建設資材・生物由来ポリマー・化学薬品の3分野で、この移行期にどのような技術・経済的、また社会的インパクトが見込まれるかの分析・予測に取り組む。

一方、RoadToBioプロジェクトは石油化学工業が化石資源から脱却し、生物資源経済へ移行するための工程表作成に取り組んでいる。

欧州中の8大学と6つ以上のシンクタンク、環境保護庁などが参画。その柱の一つはまず、化学産業界がまず現実的にとりかかれそうな生物由来製品を見極め、奨励すること。第二の柱は、本丸の化学事業から大きく舵を切るための障壁を見極め、容易に移行できるようにするための戦略やアクションプランを提示すること。政府機関や自治体に対しても、市民の意識変革を啓発するコミュニケーションが必須だと警鐘を鳴らす。

市民意識を変革しよう! ― BioCannDo

同時に、市民社会に働きかけるプロジェクトも盛んだ。その好例が、2016年10月~2019年9月までと短期決戦の啓発・教育プロジェクトBioCannDoだ。

化石資源経済に浸かり切った現代人には、「バイオ・エコノミー」(生物資源経済)は、不便に感じたり、誤った理解から期待を裏切られたりすることが多くなると予測される。だからこそ、市民教育や啓発は不可欠だ。こうした市民教育にも、多くの努力が注がれない限り、スムーズな移行は望めない。各国が、限られた予算や情報量で啓発活動をするよりも、集まってやった方が質も量も突破口を超えるとして、汎ヨーロッパでの啓発キャンペーン研究が進む。

欧州のさまざまな国から、持続可能な社会を標榜するプロのジャーナリストやコミュニケーション・教育担当者らが参画し、Allthings.bioというプラットフォームを構築。BioCannDoは、それをベースに、生物資源経済や生物原料の製品についての認知を高め、理解を深めてもらうための教材、ビデオ、パンフレットや読み物、ゲームなどを提供する。生物由来の製品に関して、科学に裏付けされた明確なメッセージを発信する。

生分解性バイオ・プラスチックを説明する動画

このように、欧州では、脱プラのための研究開発の一分野として、市民社会への啓発や、産業界のオピニオンリーダーの役割を分析する社会科学研究も少なくない。

今年5月、欧州委員会から提案された「使い捨てプラ禁止法案」は、活発な議論の末、10月24日、さらに厳しい項目も加えて欧州議会で採択された。EU市民5億人を代表する議会が、「使い捨てプラにNO」とした歴史的な一歩だ。

記事の公開期限:2019年02月03日

連載

  1. 脱・既存プラを実現するイノベーション(前編)
  2. 脱・既存プラを実現するイノベーション(後編)
栗田 路子

栗田 路子(くりた・みちこ)

ライター・ジャーナリスト

EU(欧州連合)諸機関が集まるベルギー・ブリュッセルをベースに活動。上智大学卒業。米国およびベルギーの経営大学院にてMBA取得。メディア・コーディネートや通訳と同時に、執筆を通して、EUおよびベルギーの政治・社会事情(教育、環境、福祉など)を発信中。環境ビジネス、ハフィントンポスト、共同通信 News47、EU Mag(駐日EU代表部公式webmagazine)、SpeakUp Oversea’sなどに執筆。

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