SDGsを実践する
SDGsを実践する方法に決まりがあるわけではありません。SDGsと自社の事業、ステークホルダーへの理解を深めて、それぞれのアプローチで取り組んでいます。
しかし、何かガイドラインがないと、なかなか進まないかもしれません。うまくいっている取り組みを分析し、これからSDGsに取り組む組織を対象にした資料はいくつか公開されています。公開資料をガイドラインとして、実践していくのは良い方法です。
その中の1つ、「SDG Compass SDGsの企業行動指針-SDGsを企業はどう活用するか-」は、GRI(グローバル・レポーティング・イニシアチブ)、国連グローバル・コンパクト、WBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)が作成したもので、広く活用されています。
「SDG Compass」では、企業がSDGsを実践するためのステップを5つに分けています。まずは、このステップを順番にたどるのが良いでしょう。

出典:SDG Compass
ステップ1 SDGsを理解する
SDGsとは何かを理解するところから始めます。SDGsの成り立ちや考え方を理解するためにも、国連で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」を読みましょう。外務省が日本語に翻訳していて、A4、37ページのPDFが公開されています。
政治的な文書は難解なものと思われがちですが、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」はわかりやすく、示唆に富み、ポジティブな内容がつづられています。きっと最後まで退屈することなく読み進められるでしょう。
「持続可能な開発のための2030アジェンダ」を読むと、国際機関や政府や、NGO、研究機関、民間企業などあらゆる組織や知恵を総動員して、目標を達成しようとする決意を感じます。
繰り返し登場する「我々」は誰を指すのでしょうか?国連や国連に加盟する国家群でしょうか?「我々」とは、紛れもなく地球に住む70数億人すべての人と組織を指しています。SDGsは、「我々」の目標なのです。
そして、「SDG Compass」は企業が経済的利益を追求する組織であることを理解したうえで、企業がSDGsに取り組む理論的な根拠を提示しています。企業は顧客の課題解決をして、対価を得ています。SDGsで定めた目標は、70数億人の課題から発生しています。マクロな視点において、SDGsと企業活動の目的は一致しているのです。そして、意識的にSDGsを取り入れることで企業はリスクを下げ、新しい市場の発見、事業成長の機会を見いだすことができます。
ステップ2 優先課題を設定する
SDGsは「我々」の目標ですが、「私」と「私」が所属している組織はすべての目標に取り組むことはできません。それぞれの活動に応じて、優先的に取り組む課題があります。
企業が行っている事業活動を川上から川下まで並べて図にしてみましょう。その図には、社外の関係者も記載してみてください。その過程でSDGsに貢献する価値を生み出せるステップはあるでしょうか?例えば、製品を製造するために発生する温室効果ガスの排出量を削減できる取り組みはないでしょうか?再生可能エネルギーで発電された電力を契約する。運送トラックの燃費を改善する。女性の管理職や役員を増やす。増やすための制度を整える、といったことがあるはずです。
製品・サービスが製造される前や顧客が使用した後のことも考えてください。原料の調達元は環境破壊や児童労働に関わっていないか、使用後の製品はどうなっているのか。資源リサイクルがされやすい製品設計がされているのか。製品・サービスの提供前後にもヒントがあるかもしれません。

出典:SDG Compass
自分たちの組織の活動を把握し、どの領域に大きな影響を及ぼすのかを考えてみてください。
SDGs総研に掲載された事例や、産業別の様々な事例が掲載された資料「SDG INDUSTRY MATRIX」も参考にしてください。
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運輸・輸送機器産業 SDG INDUSTRY MATRIX-産業別SDG手引き-
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ヘルスケア・ライフサイエンス産業 SDG INDUSTRY MATRIX-産業別SDG手引き-
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エネルギー・天然資源、化学 SDG INDUSTRY MATRIX-産業別SDG手引き-
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金融サービス SDG INDUSTRY MATRIX-産業別SDG手引き-
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製造業 SDG INDUSTRY MATRIX-産業別SDG手引き-
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食品・飲料・消費財産業 SDG INDUSTRY MATRIX-産業別SDG手引き-
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気候変動(金融サービス、運輸、製造、ヘルスケア・ライフサイエンス、食品・飲料・消費財、エネルギー・天然資源、化学) SDG INDUSTRY MATRIX-産業別SDG手引き-
ステップ3 目標を設定する
優性課題を設定したら、現状を把握し、目標を設定します。現状と目標は数値で把握することが重要です。また、数値はできるだけ一般的に使われている指標を採用することが推奨されています。一般に広く理解されている数値の方が、報告とコミュニケーションのステップ5に進んだときによりポジティブな影響を組織に与えやすいからです。ただし、それが困難であるならば独自の指標を使ってスタートを優先した方が良い結果が得られることが多いです。
設定する目標は、ぜひバックキャストで考えてください。バックキャストとは、未来のなりたい姿から現在の姿を逆算して、直近の目標を設定する考え方です。現状からの積み上げではなく、5年後、10年度に自分達の組織が達成したい姿を想像してみましょう。
ステップ4 経営へ統合する
いよいよ実行段階です。
実行の前に、ぜひSDGsを組織の中に浸透させてください。特に経営層の理解は必須です。SDGsは利益の一部を寄付や社会貢献活動に使うだけのものではありません。本業の追求がSDGsの貢献につながるようなビジネスモデルの再構築こそが本丸です。そのためには、経営層をはじめ、あらゆる部門の理解と協力が必要です。
SDGsを組織に定着させるために、企業として定めた目標を部門や個人がどういった役割を果たし、目標を持つのか。生産性の目標や報酬への連動など組織のあらゆる目標に連動させてることでSDGsが定着していきます。
ステップ5 報告とコミュニケーションを行う
実行した結果を報告しましょう。報告する相手は、経営層や社内だけでなく、社外にも積極的に行いましょう。インターネットの登場で情報の発信は非常に安価で簡単になりました。目標達成の可否に関わらず、自社の取り組みを広く報告しましょう。
SDGsは世界共通の目標です。自社の取り組みを公表することで、取引先との関係強化、新たな取引先の開拓、採用への好影響などがあるでしょう。そして、1回で終わらせず、ステップ2に戻って実行して、SDGsを組織に定着させましょう。きっとあなたの組織にとって良い影響をもたらします。
SDGsと新事業
「SDG Compass」の実践ステップを追っていくなかでどのように感じたでしょうか?多くの可能性を感じるとともに、実行に壁を感じることがあったかもしれません。
SDGsの考え方を民間の企業活動に適用させるのは新しい取り組みです。既存の事業でSDGsを取り込むときに、修正が必要な業務があるかもしれません。歴史があり、複雑な事業ほど新しい考え方を浸透させ、再構築する難易度、労力は大きくなります。もちろん、既存の業務を変えていくのは必要ですが、同時にSDGsの考え方を最初から取り込んだ新事業に取り組むという考え方があります。
SDGs総研では、企業の強みを生かし、5年後、10年度に柱となる新しいビジネスモデル、SDGsに貢献する新事業の開発を支援する取り組み「SDGs新事業プロジェクト研究」を行っています。